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論文題目「連続回転炉を用いた水素還元による酸素欠損型金属酸化物の製造」

熊井絵理


1.緒言
 月面基地建設計画は,宇宙開発において重要とされる計画のひとつである.月面での有人活動には水や酸素が必要不可欠であり,月資源の水素還元による水や金属製造プロセスの開発が注目されている.同様のプロセスを用いた水素還元技術は,地上での金属酸化物の還元による酸素欠損型金属酸化物の製造に応用可能である.酸素欠損型金属酸化物は高機能性材料として注目され,幅広い分野での応用が期待されている.
 本研究では,連続運転が可能でスケールアップが容易な連続回転炉を用いて,月土壌からの水製造および酸素欠損型WO3のひとつであるWO2.72の連続製造プロセスの検討を目的とした.

2.実験方法
 本研究で作製した連続回転炉では,試料をホッパーからスクリューの回転によって反応管に連続的に供給し,水素を反対側から導入する.反応管を電気炉で所定の温度まで加熱する.
 原料は月土壌シミュラント(FJS-1)およびWO3を用いた.FJS-1にはFe2O3,FeOがそれぞれ4.77wt%,8.3wt%含まれており,これらの金属酸化物が水素によって還元される.本実験では,還元剤である水素ガスを常に流入し,還元により生成した水蒸気を系外に排出する.したがって系は非平衡状態となり,熱力学的には反応が困難な系においても還元が可能である.
 反応条件は全条件において水素およびアルゴンガス合計の流量を10 L/min,反応管入口圧力300 kPaとした.さらに還元温度を1023~1273 K,還元時間を7~26分,水素濃度を3~10%の範囲で変化し,それぞれの操作条件の還元反応への影響を検討した.還元後の試料は粉末X線回折(XRD)および走査型電子顕微鏡(SEM)により評価した.

3.実験結果
 還元温度1123 K,水素濃度3%で還元時間を7~26分の範囲で変化し,WO3の水素還元をおこなった.生成物のモル分率をXRD分析結果から計算した.還元時間の減少に従って目的生成物であるWO2.72の割合が増加し,還元時間7分の条件では85mol%に達した.また,還元時間の違いによる生成物の組成の変化から,反応初期に還元が大きく進行し,時間の経過とともに還元速度が緩やかになった.15分と26分では組成の変化がみられなかった.
 原料粒子の断面は,粒子内部にひびが見られるが,粒子全体に細かい隙間は見られない.一方,7分還元した生成物は全体に繊維状の結晶成長が確認できる.WO2.72は異方性成長挙動を示すことが報告されていることから[2],還元時間7分での主成分はWO2.72であり,粒子内部まで反応が進行している.さらに,26分還元後の試料には数mm以下の小さい粒子が形成された.WO3の還元の過程で生成するWO2は小さい粒子の集合であることが報告されており,還元時間26分ではWO2への還元が始まっていることが確認できた.以上のことから,操作条件により還元度を調整し,酸素欠損型金属酸化物の連続的な製造が可能であることが示せた.

4. 結言
 水素還元により機能性材料であるWO2.72の連続的な製造に成功した.また,様々な操作条件により還元度を制御できると示した.今後は,同プロセスを用いてWO2.72の単相での製造および他の酸素欠損型金属酸化物の連続的な製造を行う.



 化学工学会九州支部オンライン学生発表会 優秀発表賞(2020年12月)
「連続回転炉を用いた月土壌の水素還元プロセスおよびその工業的応用」

業績は修士論文をご覧ください。