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論文題目「低級アルコールをプラズマ原料とするミスト量調節型水プラズマにおけるアーク変動解析」

西山 翔

緒言
熱プラズマには高エンタルピー,高化学活性などの特徴があり,廃棄物プロセスへの応用,実用化が進められている.水プラズマは水を原料とする熱プラズマであり,エネルギー効率が高く,また豊富なH,O,OHラジカルの存在により有害副生成物の発生を抑制できるため,新規な廃棄物処理プロセスへの導入が期待されている.
従来の水プラズマ発生装置では,吸湿材による毛細管現象を利用して原料溶液を放電領域に供給していた.しかしこの手法には,原料供給量の制御性や連続運転での安定性に課題があった.そこで本研究では,原料溶液をミスト化して供給する新規な水プラズマ発生手法に着目した.
水プラズマのアーク変動特性を解明することは分解効率の向上につながる.既往の研究で,ミスト供給型水プラズマのアーク変動特性は原料供給速度の影響をうけ,原料溶液の蒸気圧と表面張力が支配的になるとわかったが,各物性値が及ぼすアーク変動特性への影響を定量的に評価することはできていない.そこで本研究では,ミスト量調節型水プラズマのアーク放電特性を解明することを目的とし,高速度カメラとオシロスコープを同期させたアーク変動解析と,発光分光法によるアーク温度解析を行った.

実験方法
本研究でアーク変動観察に使用したトーチでは,Hf陰極とCu陽極間に直流電圧を印加し,生成した直流アークによりプラズマを発生させる.原料溶液は高温液面から蒸発した蒸気と,トーチ底部の超音波振動子で発生させたミストにより,プラズマの放電領域へと供給される.そのため,本システムのアーク変動特性は蒸発量を決定づける蒸気圧とミスト発生量を決定づける表面張力が支配的となる.そこで,1-プロパノール,2-プロパノール,エタノールをプラズマ原料に選定した.これらの表面張力には大差がないため,蒸気圧がアーク変動特性に及ぼす影響を明確にできる.
トーチ上部に設置した高速度カメラとオシロスコープを同期させ,アーク変動の可視化を行った.高速度カメラの撮影速度は4.2×10^5fps,露光時間は1 μsとした.また,発光分光分析装置をトーチ上部に設置して,H原子由来のHαとHβの線スペクトル強度を計測し,Boltzmann plot法を適用することで,アーク温度の算出を行った.

結果
アーク電流値9.5 Aにおける5.0mol%-エタノールプラズマの電圧波形では,のこぎり型の電圧波形が観察され,それに対応したアークの伸長・消弧の様子が確認された.これはノズル内ガス流によりアークが伸長と消弧を周期的に繰り返すリストライク現象に起因するものである. 低級アルコール5.0mol%水溶液では,蒸気圧が増加すると周波数は増加した.これは原料供給速度の増加により,放電領域で生じるプラズマガス流量が増加し,トーチ内外の圧力差が増大したことで,ノズル内のガス流速が増加し,リストライク一回あたりに必要な時間が減少したためである.
アーク温度の解析結果から,アーク電流値9.5 Aにおける5.0mol%-エタノールプラズマのアーク温度は約7,400 Kだとわかった.また,プラズマ原料の分解エネルギーが増加するとアーク温度は減少した.これはプラズマ原料の分解によるアークのエネルギー損失が増大するためである.

結言
本研究では,ミスト量調節型水プラズマのアーク変動解析を行い,原料溶液の蒸気圧とアーク変動特性の関係を明らかにできた.またアーク温度解析から,プラズマ原料の分解エネルギーの増加にともない,アーク温度が減少することがわかった.以上より,本システムのアーク変動制御および新規な廃棄物処理プロセスの実現が期待される.