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論文題目「直流アークによる金属窒化物ナノ粒子の合成」

野上晴菜

緒言
直流アークは,高温かつ高化学活性であるためナノ粒子の生成速度が速く,また目的に応じて反応雰囲気を自由に選択できるなど,ナノ粒子合成において数多くの利点を持つ.また,他の熱プラズマ発生方法と比較して熱効率が良いなど,実用的であるという特徴がある.
金属窒化物は一般的に,高硬度,高融点,高耐食性などの特徴を持つ材料であり,ナノ粒子化するとサイズ効果によりさらなる機能性を持つ場合があるため,エレクトロニクスの分野などでの応用が期待されている.そのため,金属窒化物ナノ粒子の実用化に向けて大量合成の方法の開発が求められている.本研究では,直流アークを用いた金属窒化物ナノ粒子の合成および生成機構の解明を目的とした.

実験方法
実験装置は反応チャンバー,コレクター部,および直流電源から構成される.反応チャンバー内の雰囲気ガス組成は50vol%N2-Ar,圧力は101.3 kPaとし,電流値は100 Aとした.陰極にはLa2O3を2.0wt%含むWロッドを用い,陽極には水冷銅板を用いた.銅板は試料台を兼ねており,銅板の上に金属原料(純Ti,Cr,Ce)を置いた. 合成したナノ粒子はコレクター部から回収し,X線回折(XRD),エネルギー分散型X線分光法(STEM-EDS)を用いて分析した.

実験結果および考察
Ti系では,Tiは完全に窒化してTiNナノ粒子が生成し,Cr系ではCrとCr2Nが生成した.それに対して,Ce系では窒化物は生成せず,CeO2が生成した.これはCe単体のナノ粒子が生成し,合成プロセス後に空気中の酸素と接触したときに酸化されたことが原因である.
Cr系におけるSTEM-EDSを用いたナノ粒子の元素マッピングでは,粒子毎にNの分布にばらつきがみられた.よってXRDの結果と同じく,Cr系においてナノ粒子は一部窒化したことが確認された.窒化物の生成割合を推算するため,XRDのピーク面積を用いて,生成物に対する窒化物の積分強度比を算出した.その結果,Ti系では1,Cr系では0.45,Ce系では0であった.
熱プラズマを用いたナノ粒子合成において,原料はプラズマの高温部で蒸発し,均一核生成,不均一凝縮,凝集プロセスを経てナノ粒子を形成する.このうち核生成プロセスは,生成物の組成や結晶性などの最終的な特性を制御する重要なプロセスだと考えられている.よって,ナノ粒子の核生成が起こる温度での,金属とN2分子の反応のΔG値に注目した.核生成温度は金属窒化物の融点と仮定した.XRD結果から算出した積分強度比とΔGの関係のプロットは負の相関を示しており,窒化物の生成割合とΔGの関係が明らかとなった.

結言
本研究では直流アークを用いてTi,Cr,Ceを処理し,熱力学的な指標を用いて窒化物の生成割合を評価することに成功した.金属窒化物ナノ粒子の大量合成方法として,直流アークが有用であることが示された.

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