緒言
熱プラズマの一つである多相交流アークは,直流アークと比べてエネルギー効率に優れており,プラズマ体積が大きい,プラズマガス流速が遅いなどの利点を持つ.これらの特長から,近年ではナノ粒子の大量製造手法として期待されている.
熱プラズマ中のナノ粒子の生成機構は複雑であり,これまでは数値解析を主とした検討が行われてきた.一方,直接的な観察に基づく研究報告例は少ない[2].そこで,本研究ではナノ粒子生成機構の解明を目的とし,反応場中の金属蒸気の可視化と温度計測をおこなった.
実験方法
多相交流アークは,複数の電極に位相の異なる電圧を印加することで電極間にプラズマを発生させる装置である.
Ce2O3を2 wt%添加したW電極を用い,6相交流でプラズマを発生させた.大気圧でアーク電流値を100 A,電極間距離を75 mm,周波数を60-180 Hz で実験をおこなった.炉底部よりArガスを10 L/min,電極近傍からArシールドガスを1本当たり2-10 L/minの範囲で流した.原料であるLi2Si2O5は120-220 mg/minで供給した.
発光分光によって460 nm, 610 nmにおいてそれぞれ2本の線スペクトルが確認されたことから,本研究ではカメラと透過波長域460±10.0
nmおよび610±10.0 nm の2種のバンドパスフィルタを用いてLiの金属蒸気の可視化をおこなった.また,相対強度比法を用いて高速度カメラ画像と発光分光分析に基づく温度計測もおこなった.
実験結果と考察
電極位置を原点とした中心軸方向の温度分布において,電極近傍で最も温度が高く,下流方向に温度が低下していく様子が確認できる.この温度分布の妥当性を検証するため,発光分光分析から算出した温度と比較した.それぞれの温度は各点において概ね一致しており,温度分布の妥当性が得られた.ここで確立された計測システムを用いて解析をおこなった.
周波数を変化させた際の高速度カメラ画像と温度分布図の結果より,周波数の増加に伴い,Li蒸気がより炉中心部に集中し,5,000 K以上のプラズマ領域が下流に伸びている様子が確認できる.これは,周波数の増加に伴い,プラズマ領域が炉中心部に集中したためである.
結言
本研究では,高速度カメラとバンドパスフィルタを用いた計測システムにより,多相交流アーク中の金属蒸気の可視化と温度計測に成功した.本研究で確立した計測システムにより,多相交流アークのナノ粒子生成機構の解明が可能となる.
業績は修士論文をご覧ください。