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論文題目「アルゴン-水素雰囲気における多相交流アークの温度変動特性」

富来和馬

1.緒言
多相交流アークは,熱プラズマの中でもエネルギー効率が高く,プラズマ体積が大きいといった利点を持つ.そのため,インフライトガラス溶融やナノ粒子合成などの多量の粉体処理プロセスへの応用が期待されている.多相交流アークをより効率的にプロセスに適用するためには,アークの安定性や高温場の温度特性の解明が必要不可欠である.

これまでの研究では,高速度カメラ観察により多相交流アークの変動現象が明らかにされてきている.さらに,近年では高速度カメラを用いて,定常または軸対称なアークの温度計測も行われている. 多相交流アークにおける雰囲気ガスとして従来ではAr等の不活性ガスや安価なガスであるN2が用いられてきた.近年では,還元雰囲気であるH2が注目されており,雰囲気ガスの組成制御が多相交流アークの温度変動特性に与える影響を解明することは重要である.

本研究では,還元雰囲気の組成制御が多相交流アークの温度変動特性に与える影響の解明を目的とし,水素濃度が多相交流アークに及ぼす影響の解明を試みた.

2.実験方法
多相交流アーク発生装置は,放射状に配置した電極に位相の異なる交流電圧を印加することで,連続的に熱プラズマを発生させる. 本研究では,プラズマガスとしてArとH2の混合ガスを用い,水素濃度を20%, 30%, 40% の3条件で変化させ,温度特性に及ぼす影響を評価した.プラズマ発生の操作条件として,放電相数を6相,アーク電流を120 A,雰囲気圧力を80 kPa,周波数を60Hzとした.

今回は,主にH原子の輝線スペクトルが透過する486±5 nm,656±5 nmのバンドパスフィルタに高速度カメラを組み合わせた計測システムを用いた.温度計測には,H原子の線スペクトルの発光強度の比から温度を算出する発光強度比法を採用した.

3.実験結果及び考察
水素濃度20%, 30%, 40% における6相交流アークの温度分布のスナップショットにおいて,アークの温度域は5,000〜15,000 Kであることがわかる.水素濃度の増加にともない,アークが激しく揺らぎ,アークが電極の外側まで及ぶ瞬間が増えている様子が確認できる.

各水素濃度における7,000 K以上の高温領域の平均面積とその変動係数を算出した.水素濃度の増加にともない,アーク面積と変動係数がともに増加する傾向が見られた.

以上の現象について,水素濃度の増加にともないアークが長くなっていることが原因であると考察する.本実験では,水素濃度が増加するとアークが長くなる傾向が見られた.アークが長くなるとアーク面積が大きくなり,揺らぎが大きくなることで変動係数も大きくなったと考えられる.

4.結言
本研究では,高速度カメラを用いた計測システムにより,還元雰囲気における非定常,非軸対称な多相交流アークの変動現象や温度場の可視化に成功した.水素濃度の制御により,変動を有する高温場の制御が可能であることが示された.