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論文題目「窒素直流アークにおけるタングステン陰極消耗現象」

吉田匡希

緒言
直流アークは,高化学活性,急速なクエンチングが可能といった特徴を有しており,金属ナノ粒子合成へと応用されている.ナノ粒子合成プロセスでは,安定した長時間運転や生成物への電極由来物質の混入防止のため陰極消耗現象の理解は必要不可欠である.
従来では,雰囲気ガスとしてArやHeといった不活性ガスが用いられてきた.近年では安価なN2を雰囲気ガスとした研究が注目されている.不活性雰囲気における陰極消耗現象は多くの報告例がある.仕事関数の低い酸化物(電子エミッター)を数wt%添加したW電極を用いることで,安定で低消耗なアークが実現されている.一方,N2雰囲気下では陰極消耗の悪化が確認されており,その消耗機構は未解明である.そこで本研究では窒素直流アークでの陰極消耗現象の解明を目的とし,N2雰囲気に適した電極の検討を行った.

実験方法
本実験で用いた直流アーク発生装置では,陰極には,Pure-W,0.39wt%Ce2O3,0.37wt%ZrO2,2.0wt%Ce2O3,2.0wt%ThO2を添加したWロッドを用い,直径6.0 mm,先端角度は60度とした.陽極は水冷Cuを使用し,陰極との間で電流値60,100,150,200 Aでアーク放電を発生させた.雰囲気ガスはAr50vol%-N250vol%とし,陰極周囲に流すシールドガス流量は10 L/min,電極間距離は10 mmとした.
陰極先端温度の計測のために,高速度カメラと適切なバンドパスフィルター(BPF)光学系を組み合わせ,陰極からの熱放射のみの観察を試みた.BPF波長には,プラズマガス由来の発光の影響がない785 nmと880 nmを用いた.得られた2波長の相対強度より,2色放射測温法を用い陰極先端温度を算出した.

結果と考察
消耗速度はPure-Wが最も大きく,電子エミッターを添加することで陰極消耗は大きく低減化された.Pure-Wの先端最高温度が約4500 Kと最も高いのは,仕事関数が4.5 eVと高いためである.電子エミッター種で先端最高温度が異なる原因について, 2.0wt%ThO2-Wと2.0wt%Ce2O3-Wの比較から,以下のように考察した.
2.0wt%ThO2-Wの先端最高温度はWの融点以上であり,先端部ではWとThO2が共に溶融していると考えられる.そのため実効仕事関数が主成分であるWに依存していると考えられる.一方,2.0wt%Ce2O3-Wの先端最高温度はWの融点以下であり,先端部では電子エミッターのみが溶融している.溶融した電子エミッターは陰極先端を被覆するため,実効仕事関数はCe2O3の仕事関数に近い値をとると考えられる.なお,Ce2O3添加時にWの溶融が見られなかった要因としては,電子エミッターの融点が異なるためだと考えられる.Ce2O3の融点(2523 K)はThO2(3323 K)より低いため,Ce2O3はW表面の広範囲に広がり,熱電子放出の役割はCe2O3が担うのだと考えられる.
先端最高温度と消耗速度には相関があると考え,その関係を調べたところ,先端最高温度が高いほど消耗速度が大きいことがわかった.また,先端最高温度がWの融点以下の場合,消耗速度が極めて小さくなることが示された.先述したように,先端温度がWの融点以下の場合,実効仕事関数は低く,先端温度も比較的低くなる.結果として,先端最高温度がWの融点以下になる陰極では消耗が抑制されたと考えられる.

結言
本研究では高速度カメラとBPF光学系を用いた陰極温度計測により,N2雰囲気下で消耗量の少ない陰極の検討を行った.結果,電子エミッター種は先端温度に大きく影響を与え,先端最高温度がWの融点以下になると,消耗量を大幅に低減化できることが示唆された.




プラズマ・核融合学会 九州支部第21回支部大会
講演奨励賞 (2017年3月)
「高速度カメラを用いた窒素直流アーク中のタングステン陰極現象の可視化」


 この度は私の研究発表が講演奨励賞を受賞できましたことを,大変うれしく,光栄に思います.私がこのような栄誉ある賞を頂くことができたのも,渡辺先生をはじめ,田中先生や研究室の皆様のおかげです.この場をお借りして,皆様に心よりお礼申し上げます. 
化学工学部門2018年度修士中間発表
優秀発表賞 (2017年2月)
「窒素直流アークにおける電極消耗機構」
The 7th International Conference on Microelectronics and Plasma Technology
Best Poster Award (2018年7月)

「High-Speed Visualization of Electrode Phenomena in Nitrogen DC Arc」

業績は修士論文をご覧ください。