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論文題目「多相交流アークを用いたインフライト溶融によるフライアッシュの無害化」

Chen Si

緒言
熱プラズマは,高温,高化学活性,高急冷速度を持つことに加え,反応雰囲気を自由に選択できるという特長があるため,廃棄物処理や材料プロセッシングへの応用が期待されている.多相交流アークは,他の熱プラズマと比較してプラズマ体積が大きく,エネルギー効率が高いという特長を有する.そのため,革新的ガラス溶融技術であるインフライトガラス溶融に用いる熱源や,ナノ材料合成に用いる高温化学反応場として,多量の粉体処理プロセスへの展開が期待されている.
石炭は,可採年数が石油や天然ガスに比べ長く,安価であり,安定な調達が可能であるため,広くエネルギー源として利用されている.特に東日本大震災後,原子力発電所の代替として,今後も石炭の需要が増加することが見込まれる.石炭火力発電所では,粉砕した石炭をボイラ内で燃焼させ,そのエネルギーを電力に変換している.この燃焼により発生した灰粒子は,高温の燃焼ガス中を浮遊し,温度低下に伴い,球形微細粒子となり,最終的に集塵機で捕集される.このように発生した粒子は,一般にフライアッシュ(FA)と呼称される.
FAはセメント原料等に有効利用されているが,近年のセメント需要の低下と相まって,灰埋立地の利用年数が短縮傾向にある.セメント原料以外に土砂代替材として利用することも有効な方法であるが,FAに含まれる微量元素(As,B,Se等)溶出の問題から利用が進んでいない.一方,石炭の燃焼過程でボイラ下部から排出される溶融灰(クリンカ灰)は,灰表面がガラス状のため微量物質の溶出がなく,路盤材等様々な材料として利用されている.従って,クリンカ灰のようにFA表面を溶融処理することで,土砂代替材としてFAの大量有効活用が可能となる.そこで本研究では,多相交流アークを用いてFAを溶融処理することで,FAをクリンカ灰と類似の性状に改質し,無害化することを目的とする.

実験方法
多相交流アーク発生装置は,炉側面から12本の電極を放射状に均一に挿入し,各電極に30度ずつ位相の異なる交流電圧を印加することでアークを発生させる熱プラズマ発生装置である.本研究では,多相交流アーク中に,FAを投入し,インフライト溶融実験を行った.プラズマ発生条件としては,電極1本当たり100 Aの電流値と固定し.電極間距離は上段100 mm,下段120 mmとした.プラズマ発生に用いる電極には,La2O3添加W電極を用いた.電極酸化防止のため,各電極近傍には Arガスを10 L/min と流した.炉上部に粉体供給管を設置し,キャリアガス(Ar: 20 L/min)によりプラズマ中に被処理物質であるFAを投入した.操作条件として,プラズマ中への供給速度を変化させて実験を行った.プラズマ中でインフライト溶融したFA粒子は,実験後に炉底面より回収した.

分析方法
処理前後FA粒子は走査型電子顕微鏡(SEM)による形状観察と粒径計測を行った.微量元素の含有量は「底質調査方法」(平成24年8月 環境省 水・大気環境局),溶出量は日本工業規格(JIS)に則り,As,SeとCr(VI)を原子吸光分光法(AAS),Bを誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES),Fをイオンクロマトグラフィー法(IC)により定量分析を行った.また,溶出量を土壌溶出量基準と比較した.

実験結果と考察
プラズマによるインフライト処理により,FAの一部は溶融し,一部は蒸発する.したがって,溶融したFA粒子の粒径分布は変化する.処理後炉底部に回収された溶融FA粒子,フィルターにて回収された蒸発成分由来の粒子のSEM画像および粒径分布の測定結果より,粒径1~3 µmの粒子が大多数を占める原料に対して,炉底部にて回収した溶融FA粒子中からは,2 µm以下の粒子がなくなっていることがわかった.これは,FA粒子のうち,粒径の小さい粒子が,プラズマ中で蒸発したためである.一方,フィルターにおいて回収された粒子 (以下,フィルター回収粒子) は,ほぼナノサイズであり,平均粒径が77 nmであった.
プラズマ処理後の炉底部回収粒子およびフィルター回収粒子中における微量元素の含有量に及ぼす供給速度の影響において,いずれの微量元素においても,炉底部回収粒子中の微量元素含有量が,原料と比較して小さくなっていた.一方で,フィルター回収粒子においては,微量元素の含有量が大きくなっていた.