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論文題目「高周波熱プラズマによるリチウム複合酸化物ナノ粒子の結晶構造の制御」

野中 侃

1.緒言
 高周波熱プラズマは高温かつ高化学活性であり,他の熱プラズマと比較して滞留時間が長い(10~100 ms)という特長を有する.また,反応雰囲気(酸化,還元,不活性)を制御することができ,原料(気体,液体,固体,サスペンジョンなど)を自由に選択することができる.これにより,従来では使用が困難であった原料を利用することができ,様々な目的に沿ったナノ粒子合成が可能である.さらに,無電極放電であり,プラズマ尾炎部での超急冷が可能であるため,従来では合成しにくい形態,結晶構造,化学組成のナノ粒子の高純度な大量合成が可能である.これらの点から,高周波熱プラズマは新規のナノ粒子合成プロセスとして注目されており,産業応用を目指した大量合成に関する報告も行われている.
  Li複合酸化物はLiイオン電池の正極,固体電解質,負極の電池材料として利用されている.現在,正極材料として実用化されているLi複合酸化物の結晶構造には,層状岩塩型(R-3m),スピネル型(Fd-3m),オリビン型(Pnma)がある.その中でも主に層状岩塩型LiCoO2が用いられている.しかし,原料のCoが高コストであり,環境負荷も高いという欠点がある.そこで,LiCoO2の代替材料の研究が進められている.その一つに立方晶岩塩型(Fm-3m)がある.特にNbの立方晶岩塩型Li3NbO4は高容量であり,Nbの価格が安定しているという点から注目されている.そこで本研究では,Nbと同様に立方晶岩塩型を取り,かつ添加することで電池特性の向上が見込まれるNi,Fe,またはTaを加えた立方岩塩型Li-Nb-Metal複合酸化物ナノ粒子の合成,および生成機構の解明を目的とした.

2.実験方法
 実験装置は大別してプラズマ発生部であるプラズマトーチ,ナノ粒子を合成する反応チャンバー,ナノ粒子を回収するフィルターで構成される.原料粉体はキャリアガスによってプラズマ中に供給され,瞬時に蒸発し,その後プラズマ尾炎部において急冷される.この急冷プロセスにおいて原料蒸気は過飽和状態に達し,均一核生成,不均一凝縮を経てナノ粒子が生成する.生成したナノ粒子はガスによって運ばれ,堆積する.
 プラズマ発生条件として,周波数を4MHz,投入電力を20 kW,雰囲気圧力は大気圧とした.立方晶岩塩型Li-Nb-Me複合酸化物ナノ粒子を合成することを目的とし,Li-Nb-Ni系,Li-Nb-Fe系,Li-Nb-Ta系において実験を行った.原料として粒径3.5 μmのLi2CO3,および粒径3~40 μmの各種単体金属(Nb,Ni,Fe,Ta)を用いた.原料組成比はLi:Nb:Me = 6:1:1とした.混合粉体をキャリアガス(Ar: 3 L/min)により搬送し,その供給量は0.3 g/minとした.プラズマトーチにはインナーガスとしてAr(5 L/min),シースガスとしてAr(57.5 L/min)とO2(2.5 L/min)を流した.このO2供給量は,目的物質であるLi複合酸化物の化学量論組成に対して過剰なO2量となる.
 合成したナノ粒子は,粉末X線回折(XRD)を用いて結晶構造を同定し,透過型電子顕微鏡(TEM),走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて粒子形態と粒径分布を評価した.また,エネルギー分散分光法(STEM-EDS)による半定量分析および元素マッピングを行った.

3.実験結果
 Li-Nb-Ni系,Li-Nb-Fe系,Li-Nb-Ta系のナノ粒子のXRDチャートおいて,目的物質である立方晶岩塩型(Fm-3m)に対応するピークが見られた.Li-Nb-Ta系では単相でFm-3mの合成ができた.またLi-Nb-Ni系およびLi-Nb-Fe系においては,副生成物として,Li2CO3のピークが見られた.
 Li-Nb-Ni系とLi-Nb-Fe系において,高角側へのピークシフトが確認された.これは,Li3NbO4 (Fm-3m) の金属サイト中のNbイオン(0.64Å)が,よりイオン半径の小さいFeイオン(0.55Å)またはNiイオン(0.56Å)に置換され,格子間隔が小さくなったためである.Li-Nb-Ta系において,NbイオンとTaイオン(0.64Å)のイオン半径が等しいためピークシフトは確認されなかった.
 すべての系のSEM画像において,球状粒子が確認された.この球状粒子は,電子線回折の結果より,立方晶岩塩型粒子だとわかった.また,ナノ粒子の平均粒径は47~58 nmであった.
 生成物中の立方晶岩塩型Li-Nb-Me複合酸化物の有無を確認するためにSTEM-EDSによる元素マッピングおよび半定量分析を行った.Li-Nb-Fe系の実験で得られたナノ粒子の元素マッピングにおいて,NbとFeの元素マッピングが重なっていた.これは,生成物がLi-Nb-Fe複合酸化物ナノ粒子であることを示している. Li-Nb-Ni系およびLi-Nb-Fe系において,全体の遷移金属組成に対して,粒子個々の遷移金属組成の偏差が大きかった.
 生成機構を解明するために核生成温度を算出した.各系において最も高温の核生成温度を持つ金属が核生成する.よって,算出した核生成温度よりLi-Nb-Ni系およびLi-Nb-Fe系では,Nb,Li-Nb-Ta系では,Taが核生成すると考えられる.核生成に伴い,核の周りに存在する金属および酸化物蒸気がその核に凝縮して,反応することによりLi-Nb-Me複合酸化物が生成する.
  Li-Nb-Ni系およびLi-Nb-Fe系で,粒子個々の遷移金属組成にばらつきがあった理由を,核生成の観点から考察した.Li-Nb-Ni系およびLi-Nb-Fe系では,高融点金属であるNbが核生成し,NiまたはFeの融点まで金属および酸化物蒸気が凝縮,反応する.そのため,同じ高融点金属であり,核生成温度および反応温度場が近いNbとTaよりも反応温度場が広い.つまり反応場が広く,金属蒸気の濃度に偏りが生じていると考えられる.その結果,Li-Nb-Ni系およびLi-Nb-Fe系では,様々な組成を持つナノ粒子が合成された.反応場が狭いLi-Nb-Ta系では,金属蒸気の濃度に偏りが小さく,生成されたナノ粒子の組成に大きな偏差が生じなかったと考える.

4.結言
 高周波熱プラズマを用いて立方晶岩塩型Li-Nb-Me複合酸化物ナノ粒子を合成することに成功した.ナノ粒子生成過程におけるNbと添加金属の核生成温度の違いにより,粒子個々の遷移金属組成の偏差が異なっていた.以上より,高周波熱プラズマを用いたLiイオン電池の正極材料としての高融点金属を用いたLi複合酸化物の合成が期待される.


  プラズマ・核融合学会第36回年会
若手学会発表賞 (2019年12月)

「高周波熱プラズマにおける高融点金属系リチウム複合酸化物ナノ粒子の合成」

7th Korea-Japan Joint Symposium on Advanced Solar Cells
ポスター発表賞 (2020年1月)

「Nanoparticle Synthesis of Cubic Rock-Salt Lithium Oxide with Refractory Metal for Lithium-Ion Battery Electrodes」


プラズマ・核融合学会 九州支部第22回支部大会
講演奨励賞 (2019年3月)

「高周波熱プラズマによる層状岩塩型Li-Mn-Ni複合酸化物ナノ粒子の合成」
化学工学部門2019年度修士中間発表
優秀発表賞 (2019年2月)

「高周波熱プラズマによるリチウムイオン電池用のLi-Mn-Ni複合酸化物ナノ粒子の合成」

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