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論文題目「高周波熱プラズマを用いた二元合金ナノ粒子の生成機構の解明」

山下晃平

緒言
 高周波熱プラズマは高温かつ高化学活性であり,他の熱プラズマと比較してプラズマ体積が大きく滞留時間が長いという特長を有する.また,反応雰囲気を制御することができ,原料を自由に選択することができる.さらに,無電極放電であるため,電極由来の不純物の混入がない.また,プラズマ尾炎部での超急冷が可能であるため,従来では合成しにくい形態,結晶構造,化学組成のナノ粒子の合成が可能である.
  Ni系合金ナノ粒子は磁性体として,がん温熱治療や医療イメージング技術に利用されている.治療技術確立のためには,高純度な磁性体ナノ粒子の大量合成手法の確立が必須である.また,合金ナノ粒子の磁気特性の向上には,組成の制御と元素の分布の均一性が重要である.
 気相法による合金ナノ粒子の組成制御において,原料の金属成分の飽和蒸気圧および表面張力が重要であることが既往の研究より明らかとなっている.しかし,熱プラズマによる合金ナノ粒子の組成制御における理解は不十分である.本研究ではNiと他の金属成分の飽和蒸気圧比および表面張力比に着目し,合金ナノ粒子の組成制御に与える影響を調べた.

実験方法
 実験装置は大別してプラズマトーチ,反応チャンバー,回収フィルターの3つで構成される.キャリアガスとともに供給された原料粉体はプラズマトーチ内で蒸発し,反応チャンバーにおいて均一核生成,不均一凝縮および凝集を経てナノ粒子となる.生成したナノ粒子はガスによって回収部に運ばれ回収フィルターに集積し,回収される.
 本実験では,Niとの蒸気圧および表面張力を比較することにより,Ti,Si,Fe,Ge,Cu,およびMnを選定した.飽和蒸気圧はFe,Ge,Si,Cu,Ti,Mnの順でNiに近く,表面張力はFe,Ti,Cu,Mn,Si,Geの順でNiに近い.原料中の金属含有量を12.1mol%の割合とし,それぞれ実験,分析を行った.実験条件としては,周波数を4MHz,投入電力を20 kW,雰囲気圧力を大気圧とした.インナーガスとして5.0 L/min,シースガスとして60.0 L/min,キャリアガスとして3.0 L/minのArを流した.原料粉体として単体のNiに加えて,Ti,Si,Fe,Ge,Cu,あるいはMnを用いた.平均粒径はそれぞれ5 µm,40 µm,5 µm,5 µm,5 µm,および10 µmである.
 合成した粒子は,粉末X線回折(XRD)により結晶構造を同定した.また,透過型電子顕微鏡(TEM)により粒子形態と粒径分布を評価した.エネルギー分散分光法(STEM-EDS)による半定量分析および元素マッピングを行った.

実験結果
 原料中の添加金属種を変更した際の生成物のXRD分析結果では,いずれの系においても,fcc構造のNiに由来する合金のピークが見られた.Ni内にMn,Cu,Fe,GeおよびTiが固溶すると合金の格子定数が大きくなるため,元素の固溶量に応じてピークが低角側にシフトする.また,Siが固溶すると格子定数は小さくなり,ピークは高角側にシフトする.Ni-Si系ではピークシフトが確認されなかったのに対し,そのほかの5つの系ではピークシフトが見られた.
 Ni-Ge系における生成ナノ粒子のSTEM-EDSによる元素マッピング画像において,Ni-Ge系では,NiとGeのマッピングが重なっており,原料組成比付近の濃度で均一に分布していた.今回検討した6つの系を比較すると,Ni-Fe,Ni-Ge,Ni-Cu系でほぼすべての粒子が合金化していた.それに対し,Ni-Ti系,Ni-Mn系は一つの粒子内で混合相境界面を有する相分離型粒子が多くみられた.また,Ni-Si系ではほぼすべての粒子が粒子表面を添加金属種が覆うコアシェル粒子であった.
 合金粒子における,個々の粒子ごとにEDS定量分析を行い,その組成比(Me/Ni+Me)の標準偏差を,粒子ごとの組成ばらつきの指標とした.Ni-Cu,Ni-Ge,Ni-Fe系でばらつきの小さい粒子組成が得られた.それに対し,Ni-Ti系,Ni-Mn系において最もばらつきが大きいことがわかった.この傾向は蒸気圧の傾向と一致する.
 生成機構を解明するために核生成温度を算出した.Ni-Si系においてはSiの核生成温度がNiの核生成温度よりも高いため,約2100 KでSiが核生成する.Ni-Si系以外の系では,Niの核生成温度が最も高温であることから,Niが核生成する.その核にNiと各元素が凝縮,凝集する.したがって,粒子組成を決定する重要な温度は,核生成温度であることが示唆された.
 蒸気圧比が1に近づくほど多くの合金粒子が得られた.蒸気圧比が1から外れるNi-Si系では表面張力の影響を受け,表面張力の小さなSiが粒子表面を覆うコアシェル粒子が多くみられ,合金粒子の割合は減少した.また,蒸気圧比が1に近づくほど合金粒子組成のばらつきが小さくなることが明確に示された.

結言
 高周波熱プラズマにより,Ni系二元合金ナノ粒子の合成に成功した.今回の系における組成の制御には,表面張力よりも蒸気圧による影響が支配的であった.特に,蒸気圧が近い系では,多くの合金粒子が得られ,2つの元素が均一に固溶したナノ粒子が生成した.以上より,熱プラズマによる合金ナノ粒子の合成において,原料金属の飽和蒸気圧が合金ナノ粒子の組成制御に重要であることが示唆される.

 化学工学部門2022年修士中間発表 優秀発表賞 (2022年2月)
「高周波熱プラズマを用いたFe系二元合金ナノ粒子の合成」


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