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生体材料・医用工学講座(井嶋研究室)/研究概要

臓器再構築班


◇ 細胞自己組織化


 生体臓器に類似した構造や機能を再現するためには、細胞を立体組織化するアプローチを確立することが大きな課題です。本研究では、細胞足場と微小培養環境を制御して細胞が本来持つ自己組織化能を誘導し、生体内外で三次元的な組織・臓器を再構築する最適なプロセスを確立することを目指しています。
1. 組織体培養と生体適合性足場の融合による三次元肝組織形成
 数百個の細胞で構成される球状細胞組織体(スフェロイド)とボトムアップするための生体適合性足場を融合し、肝組織の立体組織化を促しています。
2. 生体内外培養による血管網を有する立体肝臓の再構築
 ヒト初代肝細胞や支持細胞を複合した細胞シートをマウス体内で培養し、増殖因子等を誘導することで血管網を付与した肝組織体を作製しています。
3. 微小培養環境の厳密制御による機能的な器官・臓器の構築
 肝臓や腎臓由来の特殊な幹細胞、臍帯静脈由来血管内皮細胞(HUVEC)等をターゲットに、培養プロセスを最適化して機能的な器官の発生を目指しています。


◇ 脱細胞化


 肝臓は人間の内臓の中で最大の重量を占め、非常に多くの機能を果たしていることから“生体内の化学工場”と呼ばれるほど重要な臓器です。しかしながら、重篤な肝疾患に対する根治療法である移植治療のドナー不足が長年問題となっています。
 そこで本研究室では肝臓を組織工学的な手法を用いて再構築し、移植可能な臓器としての応用を目指します。臓器の構築に向けて、本研究室では“脱細胞化”という技術を足場に研究に取り組んでいます。脱細胞化とは、組織から細胞成分のみを除去することで、組織自体の構造や生体由来の細胞周囲成分を保持した、言わば臓器の型を取得することのできる技術です。脱細胞化組織はすでに臨床研究や国外での製品化がなされているものがあり、組織工学的な足場としての役割が期待されています。本研究室では肝臓の構築に向け、具体的には脱細胞化肝臓へ細胞を配置させる方法や、脱細胞化肝臓に細胞を注入した“再細胞化肝臓”の肝機能を評価する系の開発などに取り組んでいます。


組織保存班


◇ 細胞・組織保存


 本研究室では保存が困難な肝細胞や肝臓をターゲットとし、「生体試料そのものの形態や性質を維持する保存」を目指しています。
 細胞保存では、凍結保存のための凍結保護剤の開発を行っています。凍結における課題は氷晶による細胞組織の破壊です。そこで、凍結保護剤を用いて氷晶を小さくする工夫をしています。また、凍結保護剤が細胞膜にかける負担を軽減するため、細胞膜に作用する物質を開発し、壊れた細胞膜を補完する工夫も行っています。これら2つのアプローチから細胞組織を保護することで、凍結保存後の肝細胞の機能が飛躍的に向上しています。
 臓器保存では、酸素や凍結保護剤など保存に必要な物質を臓器全体に届ける循環システムの構築を行っています。構造が大きく複雑な肝臓においては、物質供給不足から半日の保存でさえも困難とされています。そこで、肝臓の血管網を利用した循環系と酸素富化装置などを組み合わせ、肝臓の活動や凍結に十分な物質供給を行う工夫をしています。このシステムにより、肝臓の長期機能維持と凍結保存が可能となっています。



微細加工班


◇ ナノファイバー


 組織工学とは、組織を構成する細胞、細胞の増殖、分化などの機能を制御する機能性分子である増殖因子、そして細胞が育つ足場を組み合わせて組織を構築するものである。この概念を基に、事故や疾患により失われた組織を再構築する再生医療が近年注目を集めている。我々は、この3要素のうち足場と増殖因子に焦点を当てて研究を行っている。増殖因子は、組織再生に有効な高い生物活性を有している一方で安定性に乏しく、且つ生体内では容易に拡散してしまい、その局所濃度を有効なレベルに維持することが困難である。そこで、我々は増殖因子の固定化能を有する足場材料を開発し、用途に合わせて様々な形状へと成形加工することで、足場上での増殖因子の局所濃度を維持し組織再生を促進可能な様々な足場基材の創出を目指している。現在は、末梢神経、肝臓、血管、胆管、皮膚をターゲットにエレクトロスピニング法によりナノファイバー化した足場材料を基礎として人工神経、人工血管等の開発を行っている。



◇ ナノエマルション


  薬物の中には、そのままでは目的部位への送達が困難である場合があります。口から飲んだ薬物が目的部位へ到達する前に胃などの消化器官で分解されてしまったり、細胞の働きによって薬物が異物とみなされ排除されてしまったり、そして皮膚表面に備わるバリア機能により薬物が皮膚を透過できないことなどがあります。これらを克服するために、薬物を目的部位へ送達する“キャリアの創出”が求められます。
 本研究室では、薬物の投与方法として多くの利点を持つ経皮投与に着目し、皮膚から薬物を送達するためのキャリアの開発を行っています。皮膚表面を透過可能なナノサイズのゲル粒子に薬物を封入し、皮膚となじみの良い油に分散させた“Gel-in-oil(G/O)エマルション”を作製しました。このG/Oエマルションに薬物を内包することで、そのままでは皮膚を透過できない分子量の大きな薬物や安定性の低い薬物を、皮膚から体内へ送達可能になります。
 この技術を更に応用し、経口投与した薬物の消化器官での分解を回避できるキャリアや、悪性腫瘍に選択的に集積するキャリアなど、様々な利用方法が期待されています。