<研究テーマ>

現在のテーマ

超臨界含浸法を用いた高分子+金属複合体の作製

超臨界二酸化炭素乾燥法を用いた酸化チタン膜製造法の開発

電場下における超臨界二酸化炭素の挙動を利用した反応・分離システムの開発

○超臨界流体を用いた機能性綿の作製

バイオディーゼル油系の高温高圧相平衡

分子シミュレーションによる熱力学モデルの検証と新しいモデルの提案

分子シミュレーションによるガスハイドレートの挙動解析

 

過去のテーマ

CO2固定化反応におけるイオン液体への反応物の溶解特性の解明

電場下における超臨界二酸化炭素の挙動を利用した反応・分離システムの開発

分子シミュレーションによる超臨界相吸着の挙動解析

相状態を利用した超臨界アルコール法によるバイオディーゼル製造システムの開発

超臨界二酸化炭素を利用したTiO2微粒子製造システムの開発

超臨界二酸化炭素を利用したエッセンシャルオイル分離システムの開発

CO2固定化反応におけるイオン液体への反応物・生成物の溶解特性に関する研究

○量子計算を利用した超臨界二酸化炭素に対する薬物の溶解度推算手法の開発

電場下における超臨界二酸化炭素の流動状態の解明

分子動力学シミュレーションによるメタン・二酸化炭素ハイドレートの挙動解析

モンテカルロシミュレーションによる超臨界相吸着分離の挙動解析

モンテカルロシミュレーションによる活量係数モデルの検証と新モデルの開発

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2007年度以前

○二酸化炭素+シトラスオイル成分系の高圧気液平衡およびエントレーナ効果の測定ならびに相関

 シトラスオイルは柑橘類から得られる清油(エッセンシャル・オイル)の一種であり、香料の原料として広く用いられている。シトラスオイルは200以上の成分からなる混合物であり、その成分はテルペン成分とフレーバー成分の二つに大別される。シトラスオイルの70〜90%はテルペン成分であるが、テルペン成分は水・アルコールに溶けにくく、また、熱・光・酸素などによって変質しやすいため、精製の際に除去することが望ましい。シトラスオイルの特徴的な香りは主にフレーバー成分による。
 これまで、シトラスオイルは水蒸気蒸留や溶媒抽出などの方法で分離精製されていたが熱変性や溶媒が残留するといった問題点があった。そこで、これらに代わる分離精製プロセスとして超臨界流体抽出法が注目されている。しかし、単一の超臨界流体では、着目成分の溶解度および選択性が低く、それらを向上させるため超臨界流体に対して適切なエントレーナ添加が試みられている。
 本研究では、液相循環式・気相流通式の測定装置を用い、シトラスオイル成分として、リモネン、リナロール、エントレーナとしてエタノールを選びシトラスオイルの分離におけるエタノールのエントレーナ効果を調べる第一段階として、二酸化炭素+リナロール+エタノール系の測定を終了し、現在二酸化炭素+リモネン+エタノールの3成分系高庄気液平衡の測定を行っている。
 

○超臨界二酸化炭素に対するフッ素化合物の溶解度の測定ならびに相関

 超臨界流体は、臨界点近傍での反応速度の向上などの多くの利点により、新たな環境低負荷型の反応溶媒として注目されている。その際、従来の有機溶媒と同様あるいはそれ以上の反応速度の向上が求められている。反応速度を向上させる1つの方法として有効な触媒の添加が挙げられるが、一般に超臨界流体に対する溶解度が小さいことが問題となっている。最近の研究によりフッ素で修飾することによる超臨界二酸化炭素に対する溶解度の向上が報告されており、問題解決の1つの方法として期待されている。しかしフッ素化合物の溶解度データは少なく、溶解度に及ぼすフッ素の効果のメカニズムについて不明な点が多い。
 本研究では、フッ素化合物の溶解度データの蓄積および溶解度に及ぼすフッ素の効果のメカニズムの解明の第1段階として、超臨界二酸化炭素に対するトリフルオロメチル安息香酸異性体の溶解度を測定し、トリフルオロメチル基の位置の差異が溶解度に及ぼす影響について考察を行う。
 

○超臨界流体の溶解特性におよぼすエントレーナ効果ならびに分光学的手法による溶媒和構造の解明

 超臨界流体抽出法は有機溶剤抽出法と比較して溶解度が小さく抽出量が少ないという問題点を持ち合わせている。この解決法として、超臨界流体にエントレーナ(溶解度を上昇させたり、選択性を向上させることのできる助溶媒)を添加する方法がある。しかし系に対して最適なエントレーナを添加しなければ、効果的なエントレーナ効果は望まれず、現状において各プロセスに対する目的に応じた、最適なエントレーナの選定は困難である。
 そこで本研究では、エントレーナ効果のメカニズムを解明し、最適なエントレーナの選定を可能とするために、超臨界流体中での溶質周囲の局所溶媒環境をフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)を用いて、分子レベルで解明し、データの蓄積を行っている。現在は環境への負荷が少なく、食品・医薬品分野への応用が期待される水をエントレーナとして選定し、様々な系(超臨界二酸化炭素+天然物・生理活性物質)に対する水のエントレーナ効果と水-溶質間の相互作用のメカニズムについて研究を行っている。
 

○高温高圧水に対する高沸点炭化水素の溶解度の測定ならびに相関

 近年、高温高圧水を反応溶媒として利用する技術が注目を集めている。その一つとして、産業廃棄物として排出される廃プラスチックを高温高圧水中で高速に分解させ、低分子化するプロセスが提案されている。このようなプロセスにおいて分解生成物中にはアルカン、芳香族炭化水素、アルコールなどが含まれており、プロセスの設計、運転操作において高温高圧水+炭化水素+アルコール系の相平衡データが必要不可欠なものとなる。
 そこで、本研究では相平衡データの蓄積を目的とし、高温高圧下での水+炭化水素+アルコール系の相平衡測定を行う。また、必要とされる相平衡データをすべて測定するのは困難であるので、なんらかの理論的なモデルを用いて相平衡を推算することが必要である。よって、修正SRK状態方程式を用い得られた実験結果と比較し、その状態方程式の妥当性を検討する。
 

○高温高圧水に対する無機塩類の溶解度の測定ならびに相関

 近年、超臨界水中での酸化反応プロセスや、ダイオキシンやPCB等の難分解性有害物質の酸化分解技術が大きな注目を集め、実用化に向けて種々の基礎データの蓄積が行われている。
 これらのプロセスにおいて、生成するハロゲン化水素による反応器の腐食を防ぐために、水酸化ナトリウム等のアルカリ剤添加による中和が行われる。しかし、その際に生成する無機塩は高温高圧水に対する溶解度が小さく、また強い付着性を有しているため、塩の析出による反応器や配管の閉塞を引き起こすことが問題となっている。従って、この無機塩の高温高圧水に対する溶解度が、基本的知見として重要となる。
 そこで、本研究では流通型の装置を開発し、高温高圧水に対する無機塩の溶解度の測定を行っている。また、得られた結果を溶液論に基づく相関式や会合モデルを用いて相関を試みている。
 

○超臨界相吸着における芳香族化合物の吸着平衡の測定ならびに相関

 芳香族化合物は機能性高分子材料や医薬品等のファインケミカルの原料として重要な位置を占めている。特に、2,6-ジメチルナフタレン(DMN)は優れた品質の合成繊維やフィルムの原料として有用であるが、その単離が困難であり工業的に重要な課題となっている。そこで、超臨界二酸化炭素に2,6-および2,7-DMN異性体混合物を溶解させた後、ゼオライト吸着層を通過させることにより吸着分離を行う「超臨界相吸着分離」を考案し、種々のゼオライトを用いてその有効性を検討した。その結果、NaY型ゼオライトを用いることにより2,7-DMNが選択的に吸着され、吸着初期ではほぼ純粋な2,6-DMNが得られることが確認され、分離の可能性が示された。さらに、種々の圧力・温度において分離効果を検討したところ、圧力が高い場合または温度が低い場合に分離効果が高いことが示された。さらに、インパルス応答法により超臨界相吸着におけるDMN異性体の吸着挙動を検討したところ、吸着平衡定数は2,6-DMNより2,7-DMNのほうが大きかったが、粒子内有効拡散係数はほとんど差が無いことが確認された。この結果より、超臨界相吸着分離は主として吸着剤と溶質との親和力の差による分離であることが示唆された。
 本研究では、超臨界相吸着における方香族化合物の吸着平衡関係を求めることを目的とし、分離溶媒に超臨界二酸化炭素、溶質に2,6-およぴ2,7-DMN、吸着剤にNaY型ゼオライトを用いて、種々の圧力における超臨界相中の溶質の吸着剤への吸着平衡を測定している。
 

○超臨界二酸化炭素による石炭からの金属抽出

 石炭転換プロセスの前処理として重要なものとして石炭の脱灰がある。石炭は、石油や天然ガスとは違い不燃性ミネラル、いわゆる灰分を多く含む。この灰分はサイクロン分離等の物理的脱灰により多く取り除かれるが、微量の金属を除去することはできない。この微量の金属は熱エネルギー・反応空間の浪費、反応炉においてスケールとなるため除去する必要がある。
 そこで本研究では、低炭化度炭の1つであるBerau炭から超臨界二酸化炭素を用いた金属抽出の効果ついて検討を行っている。超臨界二酸化炭素のみによる抽出ではほとんど抽出することが出来ないため、適当なキレート剤を添加することにより金属錯体を形成させ金属抽出効率を向上させることを目的としている。現在はキレート剤としてアセチルアセトンを用いた抽出実験を行っている。さらにアセチルアセトンに水を添加した場合の抽出効率についても検討をしている。
 

○超臨界二酸化炭素中での高沸点化合物の拡散係数の測定ならびに相関

 本研究では、プロセス設計に必要な物性の一つであり、データが不足している超臨界流体中での拡散係数に着目し、基礎データの蓄積の一環として擬定常状態固体溶解法に基づく測定装置を用いて超臨界二酸化炭素+芳香族化合物系の拡散係数の測定を行っている。特に、臨界点近傍でのデータは高圧域にくらべてもかなり少なく、本研究で得られる拡散係数のデータは非常に有意義なものであると思われる。また、臨界点近傍では拡散係数が急激に小さくなるという大変興味深い結果が得られている。
 さらに、相関においては、拡散の駆動力として化学ポテンシャル勾配を考慮することにより、臨界点近傍での拡散係数を定性的に表現できた。また、分子シミュレーションを行うことにより得られるデータを用いた拡散係数の相関も行っている。今後はこれらの知見をもとに、工学的に有効な相関式の開発を目指している。
 

○臨界点近傍における反応速度の測定および特異性の解明
 これまで、超臨界流体を用いた研究の多くが大きな溶解カをもつという特性を利用した、分離、抽出溶媒として用いるためのものであり、コーヒー豆からの脱カフェインなど、実際に工業化されているものもある。近年になり、超臨界流体は反応溶媒としても注目されるようになった。利点として、臨界点近傍において反応速度が大きく増加、または減少するという特異性が見いだされたためである。例えば、無触媒での高速反応が可能となる。この利点を工業的に応用するためには、臨界点近傍での反応速度の特異性の解明が必要となる。
 そこで本研究では、まず、液液臨界点近傍での反応速度の測定を行った。溶媒系はヘキサン+ニトロベンゼン混合溶媒、反応系はイソプレン+無水マレイン酸のDiels-Alder反応を用いた。この反応は以前に液液臨界点において反応速度の増加が報告されたものであったが、本研究ではそのような特異性は観測されなかった。次に、気液臨界点近傍において反応速度を測定を行った。反応系は液液系と同じイソプレン+無水マレイン酸のDiels-Alder反応、溶媒は超臨界二酸化炭素を用いた。気液臨界点近傍において、反応速度が大きく増加することが確認された。
 現在は、無水マレイン酸と極性物質であるエタノールのエステル化反応の反応速度測定を行っており、超臨界流体中の反応が、極性物質を反応物質に用いることによりどのような影響を受けるかについて調査中である。
 

○晶析法による有機化合物の分離・精製におよぼす電場の効果の検討

 ゾーン・メルティングは高純度の有機化合物を得るために最も有効な方法の一つである。しかし、その分離速度が遅いために、工業的規模の分離・精製プロセスに用いられていない。本研究では、電場が分離効率を向上させるか否かを調べる目的で、ノーマル・フリージングにおける電場の効果を実験的に調査した。
 ノーマル・フリージングによる3,5キシレノール+ナフタレン系の精製を試みた。固化の際、固液界面に水平方向に電場をかけることにより分離効率への電場の効果を実験的に検討した。ここで、初期不純物濃度は5wt%とした。固化終了後、固体試料中の不純物濃度の分析を行った。さらに固化面および液相の流れの様子を顕微鏡を用いて観察した。3,5キシレノールが主成分の場合、ナフタレンの濃度は電場により減少した。これは電場によって誘起された液相の対流によるものと思われる。この対流は顕微鏡により明瞭に観察された。一方、ナフタレンが主成分の場合、3,5?キシレノールの濃度は電場により増加した。この系では、電場をかけた場合に顕微鏡によって微小な結晶が観察された。このことにより3,5?キシレノールが粒状の界面により多く吸着したものと考えられる。
 現在は電場により流れが誘起される原因を明らかにするため、晶析実験と平行して、様々な有機化合物に電場をかけ、その流動現象について解析を行っている。
 

○分子シミュレーションによる流体物性の計算

 分子シミュレーションは、実験を行うことができない条件下での物性推算法としても非常に有効である。また、分子シミュレーションを行うことによって、実験からは得られない情報を得ることができる。本研究室では、主に超臨界流体を含む系に対する実測データの蓄積とともに工学的に有効な物性推算法の確立をめざしているが、そのためには超臨界流体のミクロ構造の解明が不可欠である。そこで、分子シミュレーションによって各種構造解析を行うとともに、シュミュレーションから得られる情報からミクロな視点で物性におよぼす影響を考察し、新たな物性推算手法の開発に役立てたいと考えている。