緒言
多相交流アークは,エネルギー効率が高い,プラズマ体積が大きい,ガス流速が遅いといった利点を有しており,多量の粉体処理プロセスへの応用が期待されている.特に機能性ナノ粒子の大量生産手法の確立を目的とした研究が進められている.
近年,ナノ粒子原料としてプラズマ中に供給するLi蒸気の発光を利用した反応場の可視化が行われた.複雑な時空間特性を有する温度場の評価に成功した一方で,濃度場の理解には至っていない.また発光分光計測の結果より,460
nm, 610 nm, 671 nmにおいてLi原子の線スペクトルが確認され,特に671 nmにおいてLi原子による自己吸収が生じていることが確認された.本研究では,プラズマの自己吸収を用いた濃度測定手法の確立を目的とし,Li原子の密度の算出を行った.
密度算出方法
ナノ粒子合成プロセスにおける反応場を,厚みdの円柱状の均一なプラズマを仮定する.このプラズマに対し,放射輝度L(ν,0)の入射光を与えたとき,位置xにおける放射輝度L(ν,x)の増加分は放出と吸収の差になる.吸光が生じる671
nm,吸光が生じない610 nmの放射輝度より,同相対強度の温度依存性の理論曲線を,Li原子の数密度毎に計算した.温度は460 nmと610
nmの2波長の相対強度比より算出できる.よって,460 nm,610 nm,671 nmの3波長のLi原子スペクトルを計測することで,Li原子の密度算出が可能になる.
実験方法
6相交流でプラズマを発生させ,圧力を100 kPa,アーク電流値を120 A,周波数を180Hzとした.炉底部よりArガスを10 L/min流し,電極近傍よりArシールドガスを電極当たり5 L/min流した.原料として,Li2CO3とMnO2の混合粉末を用い,LiとMnの組成比を1:1とした.原料の供給速度を約0.7 g/min,Arキャリアガスを3 L/min流し,炉底部より原料粉体の供給を行った.観測高さを変えて発光分光計測を行い,電極からの距離をそれぞれ30, 50, 120 mmとした.
実験結果と考察
異なる観察高さ3点で計測した分光結果をそれぞれ20 データ用いて,理論曲線よりLi原子数密度の算出を行った.Li原子の数密度が10E20~10E21 m-3のオーダーであることが示された.また,電極近傍の上流側において密度が高く,下流側において密度が減少する傾向が得られた.これは,下流側において金属蒸気の広がりやLi原子の酸化反応が生じたためだと考えられる.
結言
ナノ粒子合成プロセスにおける多相交流アーク中の,金属蒸気の密度計測に成功し,ナノ粒子生成機構の解明のために重要な知見を得た.高速度カメラによる濃度場の変動計測に向け,測定精度の向上や妥当性の検証を続けていく.
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プラズマ・核融合学会 第40回年会
プラズマフォトイラストコンテスト優秀賞(銅賞) (2023年11月)
「多相交流アーク放電による熱プラズマ生成」
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プラズマ・核融合学会 第40回年会
若手学会発表賞 (2023年11月)
「Li系複合酸化物ナノ粒子の熱プラズマ合成におけるLi原子の自己吸収を用いた密度計測」
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国際学会
- Aori Ichini, Ritsu Sogo, Manabu Tanaka, Takayuki Watanabe, Takafumi Okuma,
Hisao Nagai, and Hiroki Maruyama: Density Measurement of Lithium Vapor in Multiphase AC Arc for Nanoparticle
Production of Li-Mn Composite Oxide, Proceedings of 25th International Symposium on Plasma Chemistry, POS-4-112
(2023.5.22 Miyako Messe, Kyoto).
- Ritsu Sogo, Aori Ichini, Manabu Tanaka, Takayuki Watanabe, Takafumi Okuma,
Hisao Nagai, and Hiroki Maruyama: High-Speed Two-Directional Analysis of Temperature Characteristics in Multiphase
AC Arc, Proceedings of 25th International Symposium on Plasma Chemistry, POS-2-211
(2023.5.23 Miyako Messe, Kyoto).
- Manabu Tanaka, Aika Tamae, Aori Ichini, Takayuki Watanabe, Takafumi Okuma,
Hisao Nagai, and Hiroki Maruyama: Nanoparticle Formation Mechanism of Li-Mn Composite Oxides by Mutiphase
AC Arc, Proceedings of 25th International Symposium on Plasma Chemistry, 4-A-304
(2023.5.24 Miyako Messe, Kyoto).
- Ritsu Sogo, Aori Ichini, Manabu Tanaka, and Takayuki Watanabe: Fluctuation Characteristics in The Discharge Region of Multiphase AC Arc, The 13th Asian-European International Conference on Plasma Surface Engineering, p.139, P-002 (2023.11.6 Busan, Korea).
国内学会
- 一二碧利, 玉江藍花, 田中学, 渡辺隆行, 大熊崇文, 永井久雄, 丸山大貴: Li-Mn系複合酸化物ナノ粒子の熱プラズマ合成におけるLi蒸気の密度計測,
プラズマ・核融合学会九州・沖縄・山口支部第26回支部大会研究発表論文集, p.69-70, 3P2-8 (2022.12.10 九州大学筑紫キャンパス).
- 一二碧利: ナノ粒子の熱プラズマ合成におけるLi原子の自己吸収を用いた密度計測, 化学工学会九州支部第28回学生賞審査会 (2023.7.1 北九州国際会議場).
- 十河りつ, 一二碧利, 田中学, 渡辺隆行, 大熊崇文, 永井久雄, 丸山大貴: 多相交流アークにおける温度変動特性の二方向同期計測, 化学工学会第54回秋季大会,
G215 (2023.9.12 福岡大学).
- 田中学, 一二碧利, 玉江藍花, 渡辺隆行, 大熊崇文, 永井久雄, 丸山大貴: Li-Mn系複合酸化物ナノ粒子の熱プラズマ合成におけるLi蒸気計測,
第38回九州・山口プラズマ研究会資料集, p.42-43 (2023.11.3).
- 若手学会発表賞 一二碧利, 十河りつ, 田中学, 渡辺隆行, 大熊崇文, 永井久雄, 丸山大貴: Li系複合酸化物ナノ粒子の熱プラズマ合成におけるLi原子の自己吸収を用いた密度計測,
プラズマ・核融合学会第40回年会, 30A-03 (2023.11.30 盛岡アイーナ).
- 田中学, 一二碧利, 十河りつ, 渡辺隆行, 大熊崇文, 永井久雄, 丸山大貴: リチウム複合酸化物ナノ粒子の熱プラズマ合成における金属蒸気の可視化, 高速度イメージングとフォトニクスに関する総合シンポジウム2023講演論文集, 16-1 (2023.12.15 近畿大学東大阪キャンパス).
- 十河りつ, 一二碧利, 田中学, 渡辺隆行, 大熊崇文, 永井久雄, 丸山大貴: 高速度カメラを用いた多相交流アークの温度変動解析, 高速度イメージングとフォトニクスに関する総合シンポジウム2023講演論文集16-2
(2023.12.15 近畿大学東大阪キャンパス).