1.緒言
熱プラズマは10,000 K以上の高温,高化学活性,雰囲気選択性といった特長を有しているため,従来にはない組成,形状,結晶構造を有する新材料創製プロセスへの展開が大きく期待されている.本研究では熱プラズマの中でも,プラズマ体積が大きい,エネルギー効率が高い,プラズマガス流速が遅いといった特長を有する多相交流アークに着目する.
多相交流アークはこれまで,革新的ガラス溶融に用いる熱源として有用性が示されており,ナノ粒子の大量製造に用いる高温反応場としても注目されている.効率的な熱プラズマ源である多相交流アークの工業的利用が進むと,エネルギー・排ガスの大幅な削減が見込まれることから,来るカーボンニュートラル社会に向けて注目度の高いシステムとなっている.多相交流アークの実プロセスへの応用のためには,温度変動特性の解明が必要不可欠である.
これまでの研究で,高速度カメラ観察により多相交流アークの変動現象が明らかにされている.さらに,近年では高速度カメラを用いて,定常または軸対称なアークの温度計測も行われている[4].しかし,その新規性から本手法の温度特性に関する研究は充分でなく,さらに,非定常かつ非軸対称であることから計測は困難である.そこで本研究では,本手法の工業的な実プロセスへの展開を見据え,2台の高速度カメラを用いて多相交流アークの二方向同期計測をすることで,Ar-N2雰囲気における温度変動特性の立体的な把握を試みた.
2.実験装置および計測手法
多相交流アーク発生装置は,炉側面より複数の電極を放射状に挿入し,位相の異なる電圧を印加することで電極間にプラズマを連続的に発生させる.Wを主成分としてCe2O3を2wt%添加した直径6 mmの電極を用い,6相交流でプラズマを発生させた.プラズマガスとしてArとN2を用い,それらの割合を変化させ温度変動特性に与える影響を評価した.雰囲気圧力100 kPaでアーク電流値を120 A,駆動周波数を60Hzとした.
プラズマからの発光は2光路に分けられ,それぞれバンドパスフィルタによって特定の波長のみが抽出される.これらを高速度カメラのCCD面に結像させることで,プラズマ中の特定発光種のみを可視化した.主にArの線スペクトルを透過する675±5
nmと795±5 nmのバンドパスフィルタを用いた.高速度カメラの撮影速度を10,000fpsとすることで,msオーダーの変動に追従した観察を行った.
プラズマからの発光は,プラズマ中の構成粒子である原子やイオンの電子遷移由来の線スペクトル,自由電子が構成粒子との衝突により運動変化した際に放出される制動放射・またイオンと再結合する際に放出される再結合放射によるものから成る.今回,温度計測には,発光強度の比ε_675/ε_795から温度を算出する発光強度比法を採用した.発光強度を求める際,メインとなる線スペクトルを決めたうえで,発光領域にあたる制動放射と再結合放射を含めた連続スペクトルを計算し,加味することにより温度計測の精度を上げることに成功した.
3.実験結果
電極1本に着目すると,交流アーク特有の現象であるアークの消弧・再点弧を繰り返している様子が確認できる.上方から,放電領域に存在する回転電界がアークに及ぼすローレンツ力の影響により,アークが反時計回りにmsオーダーで順次発生しスイングが生じている様子が確認できる.このスイングについては側方からも確認することができる.上方からだと2本の電極間でアークが直線的に発生しているように観えるのに対し,側方からでは2本の電極間で下流に向かってアークがふくらみつつ山なりに形成される様子が確認できる.アークの温度域は7,000-18,000
Kである.電極近傍で最も温度が高く,電極から遠ざかるほど温度が低下していく様子が二方向で見られた.粉体処理を想定した場合,投下すべき位置において温度と粉体の滞留時間が異なることがわかる.
Ar:N2 = 50:50における二方向から同期計測した温度分布図をにおいて,Ar100%の条件に比べ,アークが細くなるとともに,電極付近において温度が非常に高い範囲が増加した.さらに,ローレンツ力の影響であるアークのスイングが大きくなった.
7,000 K以上の高温領域の存在確率分布を算出した結果において,N2を導入することでアークのスイングが大きくなるため,アークが及ぶ範囲が大きくなった.また,N2の割合が大きくなるとアークは細くなるため,その影響がアークスイングに勝り,アークの存在確率は全体的に小さくなった.
上方から見た,電極で囲まれる全体に対するアークの占有率の時間平均を求めた.7,000 K以上の領域は,計算される高温領域全体を含む.N2濃度の増加にともない7,000 K以上の高温領域が小さくなる一方で,13,000 K以上のより高温な領域が大きくなったことが定量的に示された.
これらの結果はN2の比熱がArに比べて大きいことからが原因としてあげられる.比熱が大きいほど冷却効果が大きいため,熱的ピンチ効果が強く影響し,アークが緊縮する.アーク緊縮により電極近傍における電流密度が増加する.ローレンツ力の影響は大きくなり,さらにアークが大きくスイングするようになった.また,ピンチ効果によりアーク領域は小さくなるものの,より高温な領域が広がった.
4.結言
本研究では,2台の高速度カメラを用いた計測システムにより,非定常,非軸対称多相交流アークの変動現象や温度場の立体的な把握に成功した.プラズマガスであるArとN2の割合を制御することで,蒸発プロセスや溶融プロセスなど,必要なプロセスに適する高温場をつくることが可能であると示唆された.
The 13th Asian-European International Conference on Plasma Surface Engineering Student Award (2023年11月) Fluctuation Characteristics in The Discharge Region of Multiphase AC Arc |
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化学工学会第54回秋季大会 プラズマシンポジウム最優秀学生賞 (2023年9月) 多相交流アークにおける温度変動特性の二方向同期計測 |
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