研究内容

固体触媒を用いた毒性金属の廃水からの除去

 近年,鉱工業排水に含まれる金属イオン濃度の制限は厳しくなっており,その除去プロセスの効率化が課題となってきている.中でも,亜ヒ酸やセレン酸などの毒性金属イオンは,その特異的な物性のために吸着法や沈殿法など一般的手法で除去することが非常に困難である.そのため前処理として水中酸化(亜ヒ酸)/水中還元(セレン酸)を行い,それぞれヒ酸と金属セレンに変えてから除去している.ところが,これらの酸化/還元反応は非常に進行しにくいため,現状では非常に厳しい条件で反応を進行させている.このように毒性物質を含む金属イオンの除去プロセスの高効率化は鉱工業課題の一つになっている.

 これに対して当研究室では,亜ヒ酸(As(III))の水中酸化およびセレン酸(Se(VI))の水中還元に対して固体触媒を利用すると,それらの反応が著しく促進されることを初めて見出した.下図は,溶存酸素を酸化剤として用いたAs(III)酸化の反応結果を示している.触媒が無ければ,溶存酸素のように弱い酸化剤ではAs(III)の酸化はほとんど進行しない.しかし,固体触媒,特に担持白金触媒を用いると,反応が劇的に促進されていることがわかる.図には示さないが,同様に,ヒドラジンを還元剤に用いたSe(VI)の水中還元においても,担持白金触媒が反応を劇的に促進することがわかった.これらの結果は,水中における金属イオンの酸化/還元反応に固体触媒はあまり寄与しないという科学的固定観念を打ち破ったと言える.

 下図は,回分反応器中で行った反応結果であるが,すでに固体触媒を充填した管型反応器を用いて連続的にAs(III)を完全酸化できることを実証している.特に,銅鉱山から排出される一般的な濃度の亜ヒ酸を水中溶存酸素のみで日本の環境基準以下まで連続的に酸化除去できることも実証した.学術的には,この反応が触媒表面に亜ヒ酸と酸素が競争的に吸着して反応が進行するLangmuir-Hinshelwood機構で進行していることを明らかにするなど,メカニズム解明の研究も行っている.

 メカニズム解明の検討からは鉄イオンによる反応促進効果など,次々と興味深いことがわかってきており,亜ヒ酸/セレン酸の酸化/還元反応だけにとどまらず広く廃水浄化の研究へと発展しているところである.

図 溶存酸素によるAs(III)の水中酸化における固体触媒の効果

ゼオライトを用いた含硫黄種ガスの触媒転換プロセスの研究

 化石資源等の含まれる硫黄種は、装置腐食や触媒劣化を引き起こすことから脱硫工程によって事前に除去するのが一般的です。一方で小型の天然ガス田の利用も拡大しており、硫黄種が各種反応に及ぼす影響を改めて検討しておくことは将来的に価値があると考えています。そこで天然ガス中に含まれる硫黄種(硫化水素・チオール・スルフィド)の触媒転換や、各種触媒反応への影響を調査しました。例えばエチレン芳香族化において硫黄種は触媒劣化の原因になりますが、適切な触媒を設計することで安定した触媒活性を維持することを見出しました。この研究はNEDO未踏チャレンジ2050(代表:静岡大学 渡部准教授)にて実施され、順次成果を公表する予定です。

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のリサイクルプロセスの研究

 炭素繊維強化プラスチック(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastic)は軽量かつ高強度という優れた材料特性を有しており、自動車や航空機の車体軽量化の材料として需要が急増しています。しかしCFRPリサイクル技術が追随できておらず、既存プロセスの改善や新規プロセスの開発が社会的に求められています。これらの課題に対して、2つのアプローチからCFRPリサイクルの促進を研究しています。

熱分解リサイクルにおける排気ガスからの有価物回収プロセスの研究

 現状のCFRP熱分解リサイクルでは、回収される炭素繊維の損傷を抑えるため、比較的低温で熱分解が行われています。温度が低いために人体に有害なガスを含む様々な成分が発生し、その処理がプロセスの拡大に課題になっていました。ゼオライト触媒を用いた有害ガスの転換除去を検討したところ、Beta型のゼオライトを用いて反応条件を制御することで、有価物であるフェノールを高選択的に得られることが分かりました。また本プロセスはCFRP熱分解温度よりも低温で実現でき、グリーンな手法でプロセス拡大に貢献できます。この研究は科研費の若手研究(19K2048)にて実施され、成果はIndustrial & Engineering Chemistry Research等で報告しました。

電気アシストを用いた新規リサイクルプロセスの研究

 炭素繊維の損傷を回避できる新規リサイクルプロセスを開発するため、電気を用いてCFRPから炭素繊維を回収する電圧印加法を研究しました。CFRPに十数Vの直流電流を印加することで、常温常圧で炭素繊維を損傷なく回収できることを見出しました。そして分離機構が、水の電気分解で発生した酸素ガスの圧力によって、機械的に樹脂が剥離する(peeling)ことを明らかにしました。この研究は池谷科学技術振興財団や向科学技術振興財団の助成のもとに実施され、成果はSeparation and Purification Technology等で報告しました。

水素中の複合金属からの特異な発熱現象の解明

 近年,水素中の複合金属が特異な発熱を起こすことが報告されている.その代表例は,大阪大学の高橋亮人名誉教授,神戸大学の北村晃名誉教授らが見出したもので,Pd-Ni-Zr合金(PNZ合金)を空気中で表面酸化させた試料が,300℃前後の水素中で数週間にわたって発熱が持続するという現象である.これらの試料を入れた反応器内に水素を充填して密閉し,外部から加熱すると,供給熱以上の温度上昇が起こり,それが2週間以上も続くと報告している.

 当研究室でも,同種のPNZ合金試料について,水素中での発熱挙動を示差走査熱量計(DSC)を用いて調べた.同時に,この試料の水素吸蔵挙動,合金化挙動,合金のアモルファス化挙動などを調べて発熱関連性を調べてきた.その結果,PNZ試料からの発熱は,水素吸蔵熱とも合金化熱とも異なるものであることがわかってきた.

 下図は,PNZ合金試料をDSCで水素中とヘリウム中で連続して測定し,その差分をとった結果である.昇温して250℃で温度を保持した場合と400℃まで昇温して保持した結果を比較している.この試料は200℃付近で水素を吸蔵するので,昇温過程ではその発熱ピークが観測される.その後,水素吸蔵が完了していない250℃で温度を保持すると,熱出力はゼロとなって発熱を起こしていない.しかし,一部の水素が脱離して吸熱している400℃まで昇温して温度を保持すると,吸熱から発熱に切り替わり,その発熱が長時間維持された(別Runで1日以上).さらに,系内の水素の圧力を上昇させると,この発熱の出力は小さくなった.したがって,この発熱が水素吸蔵熱とは異なるものであることがわかった.

 この試料は,400℃付近でも合金相が少しずつ変化しているので,その変化速度についても調べた.しかし,相の変化速度の大小とこの発熱との相関性は全く認められなかった.

 以上のように,この発熱の反応機構は依然として不明であり,非常に興味深い現象である.また,新エネルギーとしての貢献可能性もあることから,現在も研究を継続している.

図 水素中におけるPNZからの持続的な発熱現象(水素中とヘリウム中との差)

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