研究内容
マイクロ波化学プロセス
従来の電気炉では、化石資源を主なエネルギー源とし、炉の外側から反応系全体を加熱します。そのため、反応場は均一に加熱されますが、エネルギー損失が大きく、反応制御は温度や反応時間に依存する傾向があります。一方、マイクロ波加熱では、再生可能エネルギー由来の電力を利用してマイクロ波を反応系に直接照射します。これにより、触媒や反応が起こる活性点を選択的かつ迅速に加熱することが可能になります。その結果、反応の高速化や転化率・収率の向上が期待でき、従来よりも穏やかな反応条件でプロセスを進めることができます。このように、マイクロ波加熱は化学プロセスの脱炭素化に貢献するとともに、電磁波という外部刺激を活用した新しい反応制御手法として、次世代の触媒反応プロセスへの応用が期待されています。
マイクロ波化学プロセスの学理と応用
マイクロ波プロセスの学理構築から実用的な化学・材料プロセスへの展開までを一貫して進めることで、エネルギー効率の高い持続可能な化学プロセスの実現を目指しています。マイクロ波加熱は、従来の加熱法とは異なり、電磁波を介して触媒や反応活性点に直接エネルギーを供給できることが特徴です。本研究では、このマイクロ波特有の反応促進効果を in situ/operando 計測および 電磁界・熱流束解析により多角的に解明しています。ラマン分光やXAFSなどの in situ/operando 分析手法を用いて、マイクロ波照射下における触媒構造や反応中間体の変化を直接観測しています。これにより、マイクロ波が触媒表面や局所反応場に与える影響を分子・原子レベルで明らかにしています。電磁界解析および温度分布解析を組み合わせることで、マイクロ波加熱下における反応速度論やエネルギー輸送の理解を深めています。これらの知見を基盤として、バイオマス変換反応やマイクロ波バイオ3Dプリンティングなど、材料・プロセス開発への応用研究を展開しています。これらの応用として、従来加熱とマイクロ波加熱の反応場の違いに着目し、イオン液体中でのセルロース溶解促進や二酸化炭素回収反応の加速など、マイクロ波による反応促進現象を示しています。マイクロ波照射により、反応活性点が選択的に加熱されることで、高効率な反応進行が可能になります。
マイクロ波触媒反応の「その場」観察
マイクロ波触媒反応における温度分布や反応場を、ミリメートル(mm)からナノメートル(nm)スケールにわたって多階層的に「その場(in situ)」観察する研究をしています。マイクロ波照射下では、反応系全体の温度だけでなく、触媒層内部や触媒粒子局所において不均一な温度場が形成されるため、スケールに応じた解析が重要となります。mmスケールでは、in situ サーモグラフィーを用いて触媒充填層全体の温度分布や温度勾配を可視化しています。μmスケールでは、蛍光温度計測や in situ ラマン分光により、触媒粒子間や表面近傍に形成される局所的な高温場を評価しています。さらに、in situ SAXS や in situ XRD を用いることで、マイクロ波照射中の触媒構造変化や粒子成長挙動をその場で解析しています。nmスケールでは、in situ XAFS により担持金属ナノ粒子の局所構造や動的挙動を追跡し、マイクロ波による局所加熱や電場・磁場効果との相関を明らかにしています。このように、本研究では複数の in situ 計測手法を組み合わせることで、マイクロ波誘起局所高温場およびマイクロ波電場・磁場効果を階層的に捉え、マイクロ波触媒反応の本質的な反応促進機構の解明を目指しています。
マイクロ波形成局所高温場の解析
本図は、マイクロ波照射下における担持金属触媒の局所温度を、放射光を用いたXAFS測定により解析した研究内容を示しています。従来の電気炉加熱と比較し、マイクロ波加熱では金属ナノ粒子と担体との間で加熱挙動が異なり、触媒粒子局所に特有の温度場が形成されることが示唆されています。電気炉加熱では触媒全体がほぼ均一に加熱されるのに対し、マイクロ波加熱ではマイクロ波が金属粒子や担体と相互作用することで、局所的なエネルギー集中が生じます。そこで、高エネルギー加速器研究機構(KEK)PF-BL09Cにてマイクロ波 in situ XAFS測定装置を設置し、これにより、マイクロ波照射中の触媒をその場観測することが可能となり、反応進行中の触媒構造と局所温度の関係を直接解析できます。電気炉加熱およびマイクロ波加熱条件下で取得したPt LⅢ端におけるFT-EXAFSスペクトルを比較することで、Pt–Pt結合に由来するDebye–Waller因子の温度依存性を評価しています。このDebye–Waller因子の変化から、Ptナノ粒子の局所温度を定量的に推定することが可能になります。マイクロ波加熱ではPt粒子内部が担体表面よりも高温となることが明らかになり、これがマイクロ波特有の反応促進効果に寄与していると考えられます。本研究は、マイクロ波加熱下における触媒局所温度の可視化と定量評価を通じて、電磁波を利用した新しい触媒反応設計の指針を提供するものです。
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