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論文題目「熱プラズマを用いた窒素固定による腐葉土の高付加価値化」

北城戸幸紀

1. 緒言
窒素固定は,化学的に不活性な大気中の窒素を人類が利用可能な反応性窒素に変換するプロセスであり,我々の生活を様々な面で支えている.その中でも食料事情という観点では,窒素肥料として我々の生活に深く結びついている.この窒素ベースの化学肥料生産を担うハーバー・ボッシュ法は重要な化学プロセスである一方で,二酸化炭素排出問題が懸念される.また農林水産省の提案する「みどりの食料システム戦略」では,環境負荷を低減するために,2050年までに化学肥料使用量の50%低減を掲げている.

「稲妻」という言葉通り,日本では古くから雷と農作物収穫量に関連があるらしいことが伝承されている.その機序は極めて複雑であり,学理構築は難解であるものの,プラズマ農学という新しい学際領域への注目が近年高まっている.その中で,腐葉土等の有機質固体へのプラズマ照射による肥料製造法が提案されている.この手法はプロセス内で二酸化炭素が直接排出されない点,低価値あるいは廃棄物由来の有機質固体の直接肥料化が可能である点,場所を選ばずに肥料製造できる点など,既存の化学肥料生産技術と比較して優位点を有する.しかし,プラズマによる肥料製造で消費するエネルギー量は既存の窒素固定法と比較して高く,さらにその処理速度も小さい.そこで本研究では,処理速度が非常に高い熱プラズマに着目し,これを用いて肥料を製造することを目的とした.

2. 実験装置および実験方法
ロッド状のCu陰極とノズル部のCu陽極間に直流電圧を印加し,アーク放電を起こすことで熱プラズマを発生させる.湿潤空気をプラズマガスとして用い,放電領域に供給した.アーク電流値を6 A,大気圧下で,ガス流量を2, 5, 7.5, 10 L/minと変化させて熱プラズマを発生させた.プラズマ下流域である3500 K程度で生成する窒素酸化物を含むガスを,有機質固体である腐葉土に対して照射した.また,分析の簡易さから,水に対しても同様の照射実験を行うことで,各種窒素固定評価を行った.

窒素酸化物生成量を評価するため,プラズマ下流域ガスのFT-IR分析により生成気体の定性を行った.その後,NO+NO2濃度を検知管により定量した.また,水や腐葉土において吸収・固定されたNO2-+NO3-濃度は比色法により測定した.以後,NOとNO2を併せてNOxと呼称する.分析結果から,NOx生成速度(Production rate, PR)を算出しし,窒素固定に要したエネルギー消費量(Energy consumption, EC)を評価した.

3. 実験結果
ガス流量の増加に伴い,気体中のNOx濃度は低下するが,NOx生成速度は増加傾向を示した.これは,ガス流量の増加に伴い,プラズマ化された空気の単位時間あたりの量が増加したためである.同様のプラズマ生成条件での水への照射実験で得られた,窒素固定に要するエネルギー消費量ECは,ガス流量の増加に伴い低減している.大気圧非平衡プラズマを用いた際のECと比較すると,ECを93%削減することに成功した.

4. 結言
熱プラズマを用いた肥料製造法として,腐葉土および水へのプラズマ照射実験を行った.ECは,水を被照射物とした場合は6.10 MJ/mol-Nという優れた値であった.以上より,プラズマを用いた肥料製造の可能性が示された.今後,肥料としての機能評価を行う予定である.

第34回九州地区若手ケミカルエンジニア討論会 (2024年7月)
循環型農業実現に向けた大気圧アークプラズマによる腐葉土への窒素固定

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