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論文題目「多相交流アークを用いたナノ粒子合成におけるLi原子の発光と自己吸収を用いた密度変動計測 」

一二碧利

1. 緒言
熱プラズマ発生手法の一つである多相交流アークは,エネルギー効率が高い,プラズマ体積が大きい,ガス流速が遅いなどの特長を有している.そのため,多量の粉体処理プロセスに適しており,機能性ナノ粒子の大量合成手法の確立を目的とした研究が進められている.一方で,多相交流アークを用いたナノ粒子合成例は少なく,基礎現象の理解が足りないのが現状である.

これまで高周波熱プラズマによるナノ粒子合成例が多数報告されており,特にリチウムイオン電池の正極材料として研究がなされる,Li系複合酸化物ナノ粒子の合成例が報告されている.一方,高周波熱プラズマは多大な電力を要し,外的擾乱に弱い点から工業化に向けてより効率的なプロセスが求められている.そこで多相交流アークによるナノ粒子合成が注目されており,近年多相交流アークによるナノ粒子の生成機構の解明が進められている.特に,ナノ粒子の前駆体にあたるLiのガス相の温度場や密度場は,生成物特性に大きな影響を与える.ナノ粒子の生成機構の解明のために,プロセス中の反応場の理解が求められる.

ナノ粒子生成プロセスの可視化のために,原料由来のLi原子の発光を用いた蒸気計測によって,複雑な変動特性を有する温度場の評価に成功した.一方で密度場の変動の解明には至っていない.また,460, 610, 671 nmにおいてLi 原子の線スペクトルが確認され,特に671 nmにおいて自己吸収が生じたことを実験的に明らかにした[3].そこで本研究では,Li原子の発光に加え自己吸収を用いた密度計測手法の確立を目的とした.また,この手法を応用し,ミリ秒オーダーで2次元的な計測が可能な高速度カメラを用いて温度場および密度場の可視化を行うことで,多相交流アークを用いたナノ粒子合成の実用化のための第一歩とした.

2.自己吸収を用いたLi原子の密度計測原理
671 nmの波長においてLi原子の自己吸収が生じていることが確認されている.この自己吸収現象に着目し,以下の方法からLi原子の数密度の算出を試みた.温度は460 nmと610 nmの2波長の強度比から算出でき,相対強度比は610 nmと671 nmの強度比である.よって,これら3波長のLi原子スペクトルを計測することで,Li原子の数密度の算出が可能となる.

3.実験方法
多相交流アークは複数の電極に位相の異なる交流電圧を印加させることによって電極間にプラズマを発生させる装置である.Wを主成分としてCeO2を2wt%添加した直径6 mmの電極を用い,大気圧下6相交流でプラズマを発生させた.アーク電流値を実効値で87 A,電極間距離を45 mmとし,駆動周波数を60Hz, 120Hz, 180Hzと変化させた.

原料供給の条件として,プラズマの中心部,真下の位置より原料の供給を行った.原料としてLi2CO3とMnO2の混合粉末を用い,LiとMnの組成比を1:1とした.原料の供給速度を0.3 g/minとし,Arのキャリアガスにより供給を行った.

本研究で使用した計測システムでは,特定の波長域の光のみを透過する2つのバンドパスフィルタと高速度カメラを組み合わせることで,Li蒸気の可視化が可能となる.この計測システムを2つ用い,金属蒸気に対し180度対になるように同じ高さに設置することで4波長同期計測を行った.また,透過波長域460±5 nm, 610±5 nm, 671±5 nmのバンドパスフィルタを用いることで,Li原子の3波長同時計測を可能とした.そしてこの高速度カメラ画像より,2次元のLi原子の数密度分布を算出した.高速度カメラの撮影においては撮影速度を2,000fpsとし,ミリ秒オーダーである多相交流アークの時間変動に追従できるようにした.

4.実験結果
駆動周波数を60Hz, 120Hz, 180Hzと変化させたときの,Li原子の数密度分布においては,駆動周波数の増加に伴い,Li蒸気が炉中心部に集中し,下流方向に伸長する様子が確認できた.また,Li原子の数密度分布が,主に10E20から10E22 m-3のオーダーで変動している様子が確認できた.各周波数における中心軸上20 mmの点で密度の値を時間平均した.駆動周波数の増加に伴いLi原子の数密度は上昇し,変動係数は小さくなった.多相交流アークでは,周波数の増加に伴いアークの揺らぎが抑制され,炉中心部に集中することが報告されている.周波数が低い条件では,多相交流アーク特有のアークのスイングによりLi原子が拡散する.一方,周波数が高い条件ではまっすぐ中心部,下流方向に向かう流れ場が形成され,原料蒸気が高温領域を通過しやすくなったことが考えられる.原料が中心部に集まりより均一に加熱されるようになったことで,平均のLi原子の数密度が上昇し,変動係数が小さくなったと考えられる.

5.結言
本研究では,Li原子の発光と自己吸収現象を利用し,高速度カメラによる2次元的なLi原子の数密度分布を得ることができた.多相交流アークによるナノ粒子生成機構の解明のための,大きな知見を得ることができたといえる.


プラズマ・核融合学会 第40回年会
プラズマフォトイラストコンテスト優秀賞(銅賞) 
(2023年11月)

「多相交流アーク放電による熱プラズマ生成」
プラズマ・核融合学会 第40回年会
若手学会発表賞
(2023年11月)

「Li系複合酸化物ナノ粒子の熱プラズマ合成におけるLi原子の自己吸収を用いた密度計測」
  プラズマ・核融合学会
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講演奨励賞
(2025年3月)

「熱プラズマによるCH4分解由来の水素製造」

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