1. 諸言
熱プラズマアークは,製鋼,アーク溶接,プラズマ切断など,数多くの材料処理プロセスに広く応用されている.これらのプロセスにおいてマルチ電極アークにすることで高出力化と電極への熱負荷の分散を行うことができる.しかし,複数のアークが存在する場合,アーク間のローレンツ力などの相互作用により,アーク変動現象や伝熱現象が複雑になる.また,アークと陽極の接触形態であるArc-anode
attachment modeは,陽極表面への熱流束分布や伝熱特性に影響を及ぼす.
これまで,プラズマの電源方式として直流および交流が用いられてきたが,これらは異なる動作特性を示す.しかし,同一条件下で両者を体系的に比較した研究例は少ない.プロセス効率の向上および安定化のために,これらの要素が伝熱機構に与える影響を解明し,熱流束分布を適切に制御することが求められる.そこで本研究では,トリプルカソード直流アークと三相交流アークを対象に,その温度変動特性および伝熱特性を比較検討する.特に,アーク間の相互作用を変化させる操作変数として被加熱物である銅板と電極間の距離に着目し,同パラメータが温度分布,Arc-anode
attachment mode,およびエネルギー収支に及ぼす影響を明らかにする.
2. 実験装置および計測方法
3本のグラファイト電極は,上から見て正三角形の頂点をなすよう,電極間距離50 mmとして配置した.アーク電流は,トリプルカソード直流アークにおいては100
A,三相交流アークでは実効値で100 Aに固定した.受熱ターゲットには水冷銅板を使用した.チャンバー圧力は101.3 kPaとし,Arガスをチャンバーへ20
L/min,シールドガスとして電極1本あたり15 L/minを供給した.電極と銅板間の距離を5 mm,10 mm,15 mmと変化させた.
本研究で使用した計測システムでは,プラズマからの発光は2光路に分けられ,それぞれバンドパスフィルタによって特定の波長のみが抽出される.これらを高速度カメラのCCD面に結像させることで,プラズマ中の特定発光種のみを可視化した.主にArの線スペクトルを透過する675±5 nmと795±5 nmのバンドパスフィルタを用いた.アーク温度の導出には,発光強度比法を用いた.実験によりえられた発光強度比を理論曲線に適用することで,アークの二次元温度分布を算出した.さらに,伝熱特性を評価するため,冷却水の流量と温度上昇量から各部への入熱量を算出し,エネルギー収支を求めた.
3. 実験結果
トリプルカソード直流アークの温度分布の代表的なスナップショットにおいて,電極-銅板間距離が10 mmおよび15 mmへと増加するにつれて,アーク同士が強く引き付け合う様子が観察された.アークはその周囲に円形の磁場を形成する.複数のアークが存在する場合,一方のアークによって形成された円形磁場中の中に他方のアークが存在するため,ローレンツ力が作用し,アーク同士は引き付け合う.電極-銅板間距離の増加に伴ってアーク同士が強く引き付けあったのは,電極-銅板間距離の拡大によりアーク長が伸長し,ローレンツ力が作用する長さが増加したためである.
Arc-anode attachment modeには,constricted modeとdiffuse modeが存在する.Constricted
modeはアークが陽極近傍で収縮する形態であり,アノードジェットの発生を伴う.アノードジェットは陽極から陰極方向に発生するプラズマジェットである.一方,diffuse
modeはアークが陽極近傍でベル状に広がる形態である.本実験では,電極-銅板間距離の増加に伴い広範囲を加熱するdiffuse modeの割合が減少し,局所的に加熱するconstricted
modeの割合が増加した.このconstricted modeでは陽極近傍でのアークの収縮が顕著であり,アークの収縮により電流密度が増加し,ジュール加熱によって陽極近傍の最高温度も上昇し,5
mmで約9,000 K,10 mmで約11,000 K,15 mmで約13,000 Kであった.
三相交流アークでは,アーク間にはローレンツ力よる斥力が作用することから,三相交流アークの温度場の代表的なスナップショットにおいて,電極―銅板間距離が増加すると,この斥力が増大し,アークプラズマは外側へと伸長することが示された.また,銅板近傍のアーク温度は約10,000 Kであった.アークの銅板との接触に着目すると,電極-銅板間距離が5 mmおよび10 mmではconstricted modeのようにアークが銅板に局所的に接触する形態が支配的であった.これに対し,15 mmではdiffuse modeのようにアークが銅板に広範囲で接触する形態へと遷移した.
直流アークと交流アークの銅板1 mm上の温度のばらつきを箱ひげ図で評価した結果,アークは高温部が電極近傍に存在するため,交流アークでは電極-銅板間距離が増加することで,銅板近傍の温度は減少傾向にあったが,直流アークにおいては電極-銅板間距離が増加してもconstricted modeが多くの割合で存在するため銅板近傍の温度は一定だった.
直流アークと交流アークのエネルギーバランスを比較した結果,直流アークでは電極-銅板間距離が増加すると,constricted modeへの遷移に伴いアークの銅板に対する接触面積が減少するため局所的な熱流束は増加した.しかし,陽極から陰極方向へのアノードジェットの形成により銅板への総入熱量は減少した. 交流アークのエネルギーバランスでは,銅板への総入熱量に対する電極-銅板間距離の依存性は直流アークよりも小さかったが,電極-銅板間距離が増加するほど入熱量は増加した.これは,交流アークでは電極-銅板間距離が増加すると,アークが銅板に対して広範囲を加熱する形態へと遷移するためである.
4. 結言
本研究では,トリプルカソード直流アークと三相交流アークの温度場の可視化に成功し,その変動特性とエネルギー収支を比較することで,アークと銅板の接触形態が伝熱に及ぼす影響を明らかにした.直流アークにおいては,電極-銅板間距離の増加に伴いアークがconstricted
modeへ移行し,銅板への総入熱量は減少した.対照的に,交流アークにおいては,電極-銅板間距離の増加に伴いアークが銅板に対して広範囲に加熱する形態が支配的になり,銅板への伝熱量が増加する傾向が確認された.
国際学会
- Riku Ikematsu, Manabu Tanaka, and Takayuki Watanabe: Comparative Study
of Triple-Cathode DC and Three-Phase AC Arc Discharges, The 36th International
Symposium on Chemical Engineering, D08 (2025.12.6 Konju National University,
Cheonan, Korea).
国内学会
- 池末陸, 野上晴菜, 竹本裕貴, 田中学, 渡辺隆行: ツインカソードDCアークの変動現象, 九州大学×昭栄化学工業株式会社 研究交流会 (2024.8.7
昭栄化学工業糸島事業所).
- 池末陸, 野上晴菜, 竹本裕貴, 田中学, 渡辺隆行: ツインカソード直流アークにおける温度変動現象の解明, プラズマ・核融合学会九州・沖縄・山口支部第28回支部大会研究発表論文集,
p.13-14, P-2 (2024.12.21 西新プラザ).
- 鶴山佳音, 池末陸, 田中学, 渡辺隆行: Ar-N2直流アークにおけるCeO2−W陰極の消耗, 九州大学×昭栄化学工業研究交流会 (2025.8.4
昭栄化学工業糸島事業所).
- 池末陸, 田中学, 渡辺隆行: 高速度カメラを用いたマルチカソードDCアークの温度変動現象の可視化, 化学工学会九州支部2025, OC-06
(2025.10.17 宮崎大学ひなたキャンパス).
