九州大学工学部化学工学科
九州大学大学院工学府化学工学専攻
九州大学大学院工学研究院化学工学部門

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【∞∈ 化学工学】卒業生交流企画01

化学工学は、

化学を

「社会で動かす」

ための言語になる


 

同窓会講演会

座談会開催報告

2026年2月2日

「化学が好き」。

でも、その“好き”が将来どんな仕事につながるのか?

まだ輪郭がぼんやりしている。

そんなときに、その輪郭を与えてくれるのが、化学工学です。

化学反応だけでなく、流れ、熱、物質移動、制御、

そして最近ならデータやシミュレーションまで。

複雑な現象をほどき、つなぎ直し、実際に動く形にする。

そのための考え方と道具立てを与えてくれる学問です。

2026年2月2日「同窓会講演会」を開催しました。

対象は化学プロセス系の修士1年生でしたが、

当日の話には、これから分野を知る方にも届く普遍性がありました。

そこで講演の要点と、その後の座談会で交わされた言葉を、

読みやすさのために再構成して紹介します。


講演1:松森 裕史 氏

株式会社本田技術研究所)

 

「専攻を活かす:化学工学で広がる仕事のフィールド 

 ~“作る”・“測る”・“予測する”、

 燃料電池の材料からモジュールまで~」

 松森氏の話は、いわゆる「専攻に直結した一本道」ではありません。学生時代は触媒の研究。就職後は材料開発、シミュレーション、さらにシステム開発へ。対象もチームも変わっていく中で、むしろ一貫して効き続けたのが化学工学でした。印象的だったのは  「化学工学に行けたのが本当に良かった。」理由は明快でした。現実の“ものづくり”は、反応だけでは終わらない。流れ、熱、物質輸送、制御、システム……。関係する要素が増えるほど、化学工学の引き出しが必要になるからです。また松森氏は、「知識」以上に 「考え方」が役に立ったと語ります。複雑な現象をシンプルに分解する。次にそれらをプロセスとして結び直す。この“分けて、つなぐ”姿勢が、難しい問題を前に進める実務のコアになる、という話は、研究にも仕事にも通じる普遍的なメッセージでした。博士号については、海外の技術者・研究者との議論の場で「対等に話せる土台になった」という実感も共有されました。学位がゴールではなく、より大きな議論のテーブルに乗るための信頼として効く——そんな現実的な手触りが伝わる内容でした。


講演2:牛房 明子 氏

(東洋エンジニアリング株式会社)


「専攻の学びを価値に変える:

 プラント設計からデジタルソリューション」

 牛房氏は、化学工学に進んだ原点として、学生時代に先生から投げかけられた「研究者になりたいのか? それとも“モノを売る”人になりたいのか?」という問いが強く残っていると語られました。化学工学には、社会実装までの距離を縮める力がある。その直感が、専攻選択につながったといいます。入社後は、プロセス設計を中心に、制約条件が多い中で“目的を達するプロセスと運転条件”を決める仕事へ。ここで語られた「面白さ」は、化学工学の本質に近いものでした。理想解は一つではない。条件が変われば最適も変わる。だからこそ、根拠を持って設計し、周囲と合意形成していく。設計は計算だけではなく、判断と対話の積み重ねでもある——そのリアリティが伝わってきました。DXの話も具体的でした。学生時代のシミュレーション経験が、実務でそのまま生きる。さらに、シミュレーションを運転データと結びつけて“デジタルツイン”的に使うことで、新しい価値につながる。最新技術の中心でも化学工学の有用性をご説明いただきました。



 

座談会:化学工学が”活きる”瞬間  コーディネーター:井上教授

Q1 「化学工学の魅力っていつ実感できますか?」

井上: 学生の多くは講義のときに正直ピンと来ないこともある。でも今日の話を聞くと“後から活きる”感じがします。実感はいつ頃からでしたか?
松森: 社会人になってからの方が圧倒的に実感しました。扱う対象が複雑になればなるほど、化学工学の引き出しが必要になる。「学生生活をもう一度やりたいか」と問われると、やり切った気持ちがあるのでやりたくないが、「専攻をもう一度選びたいか」と言われると化学工学一択というのが本音です。
牛房: 私も同じです。設計や運転って、結局“どこが効いてどこがボトルネックか”を見抜く力が必要になる。そこに化学工学の考え方がそのまま乗ってきます。
井上: 最近はタイパ・コスパで短期に判断しがちだけれど、化学工学は“非定常の時間軸”で、長期視点で捉える力を育てる学問かもしれませんね。

Q2 「修士と博士、キャリアにどう影響しますか?」

井上: 博士進学を迷う学生も多いです。率直に、博士号はどんな場面で効きましたか?
松森: 海外の人と議論するときに、学位が“対等に話すための入口”になる感覚は確かにありました。また、博士課程で鍛えられるのは、粘り強さや問いの立て方。技術が変わっても持ち運べる力です。
牛房: 設計の現場でも、「なぜそうなるか」を突き詰める姿勢は重要です。博士かどうかに限らず、研究で培う“筋の通った説明”は武器になると思います。

Q3 「海外・英語・異文化は実際どうですか?」

井上: お二人とも海外や英語が当たり前の環境と伺いました。ハードルに感じる学生も多いですが…。
牛房: 英語は“特別なイベント”ではなく日常です。でも翻訳ツールや資料の整備も進んでいて、昔より戦いやすい面もあります。大事なのは完璧さより、目的を共有して前に進めようとするマインドだと思います。
松森: 同意です。むしろツールが便利になった分、より難しい問題に触れる機会が増えている。だからこそ、自分で整理して考える力が必要になる。

Q4 「シミュレーションやDXって、何のため?

井上: 今日の共通テーマが“シミュレーション”でした。 必要性を教えてください。
松森: 再現はスタート地点。大事なのは、シミュレータがあることで “何ができるか”ということ。設計や最適化、現象理解の道具としてどう効かせるか、そこまで考えると価値が出ます。
牛房: プラントでも同じです。シミュレーションをDXに活用して運転や監視とつなげることで、異常検知や意思決定支援といった価値が生まれます。単体で完結せずに、現場の業務フローに組み込むことを意識しています。

Q5 「若手に一番求められる力は?」

井上: 最後に、今の学生が意識すると良い“力”を一つ挙げるなら?
松森: 課題解決力。複雑なものを分解して、筋道を立てて前に進める力です。昨今は課題が非常に複雑化していますので、単一操作ごとに現象を考える事ができる力はどの分野でも役に立つと思います。
牛房: 前に進める力もですが、「ん?ちょっとおかしい」という違和感に気づく力も学生時代に養えると思います。小さな違和感で立ち止まり、周囲と議論してみることが、事故や損失を防ぐ第一歩になります。
井上: そして結局、学び直し(リスキリング)はずっと続く。ただ社会人になると時間が取りにくい。時間があるうちに、基礎を本気で積んでほしい——これは今日のお二人からの強いメッセージでした。

おわりに

 今回の講演会と座談会を通じて見えてきたのは、化学工学が「特定の業界のための専門」ではなく、複雑な世界を動かすための汎用的な思考法だということです。材料、設計、シミュレーション、DX——フィールドが変わっても、分解して、つないで、説明し、前に進める。その“型”が、社会のいろいろな場所で役に立っている。お二人の言葉は、それを具体例として示してくれました。

 ※本記事は講演・座談会の内容を、読みやすさのため要旨として再構成したものです。

 

 

 

 

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